ベトナム:仲裁判断の承認・執行にかかる近時の裁判例(下)
――金銭支払請求は全て裁判所の専属管轄か?――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
ベトナム弁護士 Nga Tran
⑶ 判旨への疑問
以上の判断について、いずれも疑問があるが、特に⑤については、その射程も含め問題が大きいと考える。
現行民事訴訟法第470条第1項(a)は、外国要素のある民事訴訟(当事者の一方が外国企業など)のうち、「その民事訴訟が財産に関係したもので、それがベトナム領土上にある不動産の場合」は、ベトナム裁判所に解決の専属管轄があると規定している。したがって、同条の対象となる紛争に該当する場合、国際仲裁・国内仲裁のいずれであるかにかかわらず、仲裁を利用することができず、仮に仲裁機関による判断を得ても、当該仲裁判断をベトナム国内で承認・執行することはできないことになる。同条の解釈については争いがあるが[1]、少なくとも、請求の対象が不動産に関する紛争であることを要求していると理解するのが自然であろう。他方で、本件において、紛争の対象が「不動産に関する紛争」にあたるとは言いがたい。すなわち、本件は、株式譲渡契約にかかるYの表明保証違反・不実表示に基づく損害賠償を内容とする請求である。したがって、仲裁判断の内容も金銭債務であり、執行対象も金銭債務である。Xらが金銭債務にかかる債務名義を取得した場合に、その執行過程で、Yの不動産に対する執行が行われる可能性は確かに存在するが、Xらが得た仲裁判断及びその債務名義と、Yの不動産とについて法的に直接的な関係性はない。
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018~2020年、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。日本にお
(Nga Tran)
2016年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。2020年ベトナム弁護士資格を取得。日系企業の事業進出に伴う手続きや法務、現地企業の売買、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務(事業拡大のための法令調査、紛争、労務、取引契約レビュー等)を担当。
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