◇SH0831◇チリの知的財産権制度の基礎 塩谷 信(2016/10/11)

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チリの知的財産権制度の基礎

西村あさひ法律事務所

弁理士 塩 谷   信

1 はじめに

 ブラジルやアルゼンチンでは経済の停滞が続く中、チリの経済は比較的堅調に推移している。チリは多数の国々と自由貿易協定(FTA)を積極的に締結しており、他の中南米諸国に比べて輸出入が盛んである。また、チリには、4つのフリーゾーン(自由貿易地区)があり、商品の関税が免除されるため、活発な商品の流通の中で、多数の模倣品・海賊版も輸入され、販売されている。模倣品・海賊版を排除するためには、基本的には、特許や商標等の知的財産権の取得が必要となるため、本稿ではチリの知的財産権制度を概観する。

2 特許及び実用新案

 特許権の存続期間は、出願日から20年であり更新はできない。そして、特許の登録要件としては、新規性、進歩性、産業上の利用可能性が求められている。発見、数学的方式、植物又は動物の品種、金融・商業システム、外科あるいは治療又は診察方法等は、特許の対象とはなっていない。

 特許出願の方式審査が終了した後に出願公告され、第三者は異議申立が可能となる。そして、異議期間経過後に実体審査が行われる。審査請求制度はなく、また、優先審査や早期審査制度もない。

 特許無効審判制度は設けられていないが、特許の無効を求める者は登録から5年以内に裁判所に対して無効訴訟を提起することが可能である。

 実用新案権の存続期間は、出願日から10年であり更新することはできない。実用新案の対象は、機械・器具・機器に関する全部又は一部あるいは組み合わせに関する考案である。そして、登録要件として、新規性、産業上利用性が求められている。

 実用新案の審査については、概ね特許と同じであり、実用新案登録の無効は、登録から5年以内に裁判所に無効訴訟を提訴しなければならない。

3 意匠

 意匠権の存続期間は、出願日から10年であり更新はできない。登録要件としては、新規性が必要であり、また、「技術的又は機能的な面のみを要素とする意匠」等の不登録事由が設けられている。チリにおける工業意匠は、立体的な意匠を保護するものであり、平面的な意匠は、工業図案(Industrial Drawing)という工業意匠とは別のものとして保護される。

 部分意匠制度、関連意匠制度及び組物の意匠制度は存在しない。また、秘密意匠制度も存在しない。

 意匠出願の審査は、概ね特許と同様であり、意匠登録の無効は登録から5年以内に裁判所に無効訴訟を提訴しなけければならない。

4 商標

 商標権の存続期間は登録日から10年であり、更新も可能である。保護対象には、立体商標、音響商標、色彩商標が含まれる。

 一出願多区分制を採用しており、商標出願の方式審査後に出願公告され、第三者は異議申立が可能となる。そして、異議期間の満了後に実体審査が行われる。優先審査や早期審査制度はない。

 商標登録の無効審判制度はなく、無効を求める者は、登録から5年以内に裁判所に無効訴訟を提訴する必要がある。ただし、悪意による登録の場合には、5年の制限はない。なお、チリ商標制度の特徴として、不使用取消制度がないことが挙げられる。

5 その他

 地名表示・原産地表示に関する保護規定があり、その存続期間は無期限である。著作権に関しては、財産権、著作者人格権、著作隣接権についての保護規定があり、財産権としての保護期間は、著作者の死後70年とされている。

 集積回路図の保護について、存続期間は、申請日又は最初の商品化から10年間であり、更新はできない。また、植物新品種及び営業秘密に関する保護規定がある。

6 条約の加入状況

 パリ条約、TRIPS協定、UPOV条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)及びベルヌ条約に加盟している。また、PCTには加盟しているが、マドプロは未加盟である。

7 知的財産権所管官庁

 チリ産業財産庁(INAPI)が、特許、実用新案、工業意匠及び商標の審査を行う。チリ産業財産庁の最終決定に対しては、産業財産権仲裁裁判所(TAPI)に上訴可能である。

8 権利侵害及び水際措置

 産業財産権侵害に関する事項は、刑事裁判所又はその他刑事事件を取り扱うことができる裁判所が管轄とされている。ただし、刑事訴訟を提起することにより、民事裁判所(通常裁判所)に民事訴訟を提起することも可能とされている。また、仮処分申請も可能である。著作権侵害については、民事裁判所又は刑事裁判所のいずれにも提起可能である。

 控訴は、領域的管轄権を有する控訴裁判所に対して行う。また、控訴裁判所の判断に対しては、最高裁判所への上告が可能である。

 水際措置に関しては、チリ税関庁及び官民税関審議会(CAPP)が担当機関となる。チリ税関庁は、申立て又は職権で疑義貨物の検査を行い、権利者に対して真偽確認を求める。権利者は、通関差止の通知から10日以内(職権差止の場合は、5日以内)に民事又は刑事訴訟を提起する必要がある。

以上

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

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