◇SH1399◇ベトナム:医薬品輸入業の外資への解禁~意味のある解禁なのか?(2) 澤山啓伍(2017/09/20)

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ベトナム:医薬品輸入業の外資への解禁~意味のある解禁なのか?(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 前回に続き、新薬事法及び政令54号で認められた外資企業の事業内容の範囲について概説する。

 

2. 新薬事法及び政令54号における外資企業の活動範囲

 新薬事法及び政令54号では、医薬品の輸入権を取得できる外資企業の対象が、医薬品製造を行う企業以外にも拡大された。しかし、外資企業に認められた活動範囲は以下の通り極めて限定的である。

(1) 現地法人による輸入業

 外資企業を含むベトナム法人が医薬品の輸入業を行おうとする場合には、輸入業者としての資格証明書(Giấy chứng nhận đủ điều kiện kinh doanh dược)を取得する必要がある。

 この証明書を取得した企業は、法令に従って以下の活動を行うことができる。

  1.  •  輸入した医薬品を、国内流通権(Distribution Rightと呼ばれる。)を有する卸売業者に販売すること
  2.  •  医薬情報担当者(MR)を通じた医薬品の紹介、医薬品の情報提供、医薬品に関するセミナーの開催、宣伝を行うこと
  3.  •  医薬品を流通させるために必要な医薬品・医薬品原料流通登録の申請、及びその登録名義の譲渡を行うこと、等

 他方、通達第34/2013/TT-BCT号における外資企業による医薬品の小売及び卸売の禁止規定は依然として有効であるため、外資企業は、輸入権を取得しても、輸入した医薬品を、医療施設、小売業者等に直接販売することができない。この規制の実効性を担保するため、外資輸入業者が以下の行為を行うことも禁止される。

  1.  •  医療施設や小売業者から直接注文や代金の支払を受けること
  2.  •  医薬品の輸送、保管業務を提供すること
  3.  •  卸売業者が販売する医薬品の小売価格を決定すること
  4.  •  卸売業者による販売戦略や販売方針を決定すること
  5.  •  医療施設への供給計画を策定すること
  6.  •  直接の買主となる卸売業者に対して、その卸売活動を助成するための財政支援を行うこと

 これらの規定は、卸売業者の独立性を担保し、外資輸入業者が、形式上卸売業者を通じて国内流通をさせながらも、卸売業者の活動を実質的に支配して、実質的に自己の裁量で国内流通を行わせようとする行為を禁止しているものと考えられる。

 これまで、外資企業の中には、ローカル資本の卸売業者に医薬品の輸入・卸売りをさせながら、輸送、保管業務などの委託を受ける形で実質的な関与を行ってきた例もあるようである。このような外資企業からすると、上記のような行為の禁止が明文化されたことは、むしろ外資に対する規制強化であるようにも見える。しかしながら、上記規制は、輸入業者としての資格証明書を取得した外資企業を適用対象としているため、このような外資企業が資格証明書をあえて取得しなければ、物流企業としてこれまで通り輸送、保管業務などの委託を受けることは可能と思われる。

 なお、政令54号では、外資企業が国内で製造した医薬品については、上記制約を受けない(したがって、直接医療機関や小売業者に販売することができる。)ことが明記されている。

(2) 駐在員事務所による活動範囲

 上記のとおり、医薬品の輸入販売を行うために現地法人を設立しても、その業務範囲は限られた内容になるため、現時点においては駐在員事務所を設立するにとどめておくことも考えられる。ベトナムにおける外国企業の駐在員事務所は、市場調査、当局との連絡、企業投資機会の促進などの活動しか行うことができず、自ら営利活動を行うことはできないが、医薬品の関係では以下の行為を行うことが認められている。

  1.  •  医薬品を流通させるために必要な医薬品・医薬品原料流通登録の申請を、駐在員事務所の名義で行うこと
  2.  •  医薬品に関する情報の広告や、セミナーを行うために必要な保健省への確認の申請を行うこと

 以上の通り、新しい法令によっても、外資企業はベトナム国内での医薬品の小売、卸売に関与することができず、あえて現地法人を設立して輸入業務だけを行うメリットは乏しいように見受けられる。しかし、年平均8.7%の成長が見込まれるとされているベトナムの医薬品市場に対して、今後のさらなる規制緩和を見越して足掛りを作っておくという動きも今後活発化するかもしれない。

 

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