◇SH3523◇中国:輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(3) 若江 悠(2021/03/10)

未分類

中国:輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(3)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

(承前)

6. 輸出管理違法行為に対する仲介サービスの禁止

 輸出管理法の規制対象となる主な主体は、輸出事業者、輸入者及びエンドユーザーであるが、これに加えて、いかなる組織又は個人も、輸出事業者による輸出管理違法行為のために代理、貨物輸送、配達、通関、第三者電子商取引プラットフォーム、金融等のサービスを提供してはならない(20条)とされる。違反する場合には、関連する仲介サービスを提供する業者は違法所得の没収及び過料等の行政処罰の対象となる(36条)。実務的には、仲介業者がこれに関連してサービス提供の対象となる輸出の法令適合性につき、どのような確認を行うことが求められるかが問題となろう。

 

7. 域外適用条項、外国による輸出規制に対する制限及び対等措置条項(いわゆる報復条項)

 草案の修正過程において米中対立が激化し、米国等により、先端技術分野を中心とする中国企業を標的として輸出管理措置が発動されたことを受け、本法では、域外適用規定及び外国の輸出規制に関する規定が追加された。

 

 まず、輸出管理法の適用範囲は、中国国内に限られず、域外適用され得る。すなわち、中国国外の組織及び個人が、本法の輸出管制管理に関わる規定に違反し、中国の安全と利益に危害を及ぼし、拡散防止等の国際義務の履行を妨害した場合は、法に基づいて処理し、またその法的責任を追及するとされている(44条)。この原則的な規定が今後どのように運用されるか注目される。

 

 他方、外国の輸出規制に関連する規定として、中国国内の組織及び個人が輸出管理に関わる情報を国外に提供するには、法に基づいて行わなければならず、国の安全と利益に危害を及ぼすおそれのあるものは提供してはならない(32条2項)。当該条項は、外国による輸出管理への対応に関して、外資を含む中国国内企業が外国政府に情報を提供する行為を制限する効果をもつ規定といえる。特に米国のエンティティリストに入れられた企業や輸出管理に関する調査を受ける企業は、この規定との関係で対応が制限されないか、今後の関連細則や実務の運用に注目する必要がある。

 

 さらに、いわゆる報復条項として、いかなる国家又は地域であっても、輸出管理措置を濫用して中国の国の安全と利益に危害を及ぼした場合は、中国は、実際の状況に基づき当該国又は地域に対して対等の措置をとることができることが定められた。類似の規定は対外貿易法7条、外商投資法40条等のようにこれまでも設けられていたが、いずれも、今後米中対立のもとでどのように運用されるか、注目される。

 

8. 商用暗号輸出入管理リストと関連する手続(補足)

 2020年12月1日に予定通り輸出管理法が施行されたが、現行の各輸出禁止制限品目リストは輸出管理法に基づく管理リストとして実施される。輸出管理法に基づき新たに制定される最初の管理リストとしては、同月2日、商務部、国家暗号管理局及び税関総署の公告により、商用暗号輸出入管理リストと関連する手続が公布された。

 

 このうち輸出管理リストには、システム、設備及び部品としてセキュリティチップ、パスワードカード、暗号化VPNデバイス、鍵管理製品、専用パスワードデバイス、量子パスワードデバイス及びパスワード分析デバイスが掲載され、これらに関するテスト、検査、及び生産設備、これらに関するソフトウェア並びに関連する技術も対象とされる。輸入管理リストには、暗号化電話機、暗号化ファックス機、パスワードカード及び暗号化VPNデバイスが掲載されている。リストに掲載されている品目と技術の輸出入を行う場合、まず、商務部に両用品目及び技術輸出入許可証の申請をしなければならず、当該許可証を取得後、税関に提出して輸出入手続を行うことになる。

(4)につづく

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(わかえ・ゆう)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました