◇SH1725◇弁護士の就職と転職Q&A Q39「二度目の転職は、より慎重になるべきなのか?」 西田 章(2018/03/26)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q39「二度目の転職は、より慎重になるべきなのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 人材市場では、即戦力の経験弁護士の品薄感が続いており、転職エージェントは、積極的に「転職経験者」に「再度の転職」を勧誘しています。若手弁護士からは「他のエージェントから二度目の転職に誘われたのですが、短期で転職を繰り返すのは履歴書が汚れますよね?」という相談を受けます。そこで、今回は、「二度目の転職」のタイミングを取り上げてみたいと思います。

 

1 問題の所在

 初めての転職は、「現職への不満」が引き金になっています。パワハラ系のボスやハードワークが常態化する環境から逃げ出すのが第一類型であり、尊敬できない上司を離れて、自分が成長できる環境を求めるのが第二類型です。いずれにせよ、「現在の日々の執務環境を改善したい」という差し迫った問題を解決するために短期的な視点から転職先が選ばれがちです。そのため、転職した後になって、中長期的なキャリアを考え直した時に、別のあらたな問題点に気付き始めます。理想の職場なんてありません。実は、転職先の職場よりも、前職のほうがずっと恵まれていた部分もあることに気付かされます。単に「いま自分が勤めている職場だからこそ、悪いところがよく見えていた」に過ぎず、「隣の芝生」が青く見えていたことにも気付かされます。そして、「前職と現職の中間地点のどこかに正解があるのではないか」という思いに駆られます。

 エージェントは、転職経験者のそのような心境を見抜いています。そのため、「一度転職した人は、二度目も考えている」と推測して声をかけてくるのです。声をかけられる側としても「現職が『終の住処』ではないだろう」という気がしているので、「いますぐに転職を考えているわけではありませんが、情報収集だけは続けたい」というような曖昧なコメントをしがちです。エージェントも「短期間で転職を繰り返すのは、履歴書を汚すことになります」「でも、年次が上がるとポストも減ってしまうので、次の転職を最後の転職にしませんか」などと説得をしてきます。そして「そろそろ景気停滞局面に差しかかっています。不景気に転じてしまったら、転職機会もなくなりますよ」と、やんわりと脅しをかけてきます。それでは、「いつかは再度の転職もしなければならないだろう」「でも、短期に転職を繰り返したくない」という二つの思いをどう調和させるべきなのでしょうか。

 

2 対応指針

 「現職よりも、自分を成長させられる先があるならば、転職を考えるべきである」という通則は、二度目の転職にも等しく適用されます。短期での転職の繰り返しでも賛成できる類型としては、特に、①将来、独立を考えている場合、②現職よりも、質の高い仕事ができるとみなされている職場に、履歴書的に見れば、上方遷移する転職ができる場合、③恩義ある知り合いから、自分を見込んで、今すぐに行かなければならない、特別なプロジェクトへの参画を求められている場合、が挙げられます。

 ただ、それ以外の場面で、短期で転職を繰り返すと、転職応募先の採用担当者に「うちに来ても、どうせすぐにやめるのだろうな」と推認されてしまうことは覚悟しておかなければなりません(オファーを貰えたならば、「採用側も自分が長く働かなくてもいいと思ってオファーしているんだ」と疑ってみたほうがいいぐらいです)。

 

3 解説

(1) 独立又はパートナーとしての移籍を考えている場合

 転職回数が増えるほどに、その「次の転職活動」での書類選考は厳しくなっていきます。応募先から「どうせうちに来ても、またすぐにやめるのだろう」と想像されてしまうことは避けられません。

 しかし、これは、雇用主が抱く懸念です。弁護士業務の依頼者にとっては、「弁護士の転職回数」はチェック項目には挙がりません。それよりも、「自分が抱えている問題について経験が深い弁護士に相談したい」という気持ちのほうが強いです。つまり、「もう、次は、誰かに雇われるつもりはない。給料をもらいたいわけではない」「次は独立する。そうでなくとも、パートナーとして自分の客を持って、事務所に経費を納める形で移籍する」と考えるならば、別に「履歴書が綺麗かどうか」に気を配る必要はありません。転職することによって、自己が開拓したいと思う(潜在的)依頼者層に近付けるとか、自分が経験を深めたい類型の案件に携わるチャンスがあるならば、「転職の間隔が短すぎるかどうか」を考慮することなく、そのチャンスに賭けるべきかどうかを純粋に問うてみるべきです。一般論としては、「同じ場所に留まるよりも、環境を変えるほうが、人脈の表面積を広げることができる」と言えますので、(半)独立準備行為として、再度の転職を正当化することもできます。

(2) 履歴書的視点

 短期での転職は、「履歴書が汚れる=次の転職活動の書類選考で不利になる」ことが慎重になるべき理由です。だとすれば、転職回数以外の点において、履歴書をプラスに更新できるような転職であれば、「『履歴書が汚れる』と思われるリスク」を減らすことができます。

 例えば、中小規模の法律事務所から大規模な法律事務所に移籍する場合や、マザーズ上場企業から一部上場企業に転職する場合などが挙げられます。仕事の実態からすれば、もしかしたら、中小規模の事務所やマザーズ上場企業にいたときのほうが、責任ある仕事をしていたかもしれません。しかし、「履歴書が汚れる」という問題は、見ず知らずの採用担当者に、面接にも呼んでもらえずに、書類審査で落とされてしまうときに顕在化します。そのため、仮に「次の転職活動」をすることになったとしても、「転職回数は多いけど、ちゃんとキャリア・アップしているみたいだね」「ちょっと面接に呼んで話を聞いてみようか」と思ってもらえることができれば、ひとつの解決策としては有効であると言えます。

(3) 職務経歴書的視点

 上記(2)とは異なり、必ずしも、職場の偏差値的に見て「キャリア・アップ」と見えるわけでなくとも、「この誘いは断れない」という類型の提案を受けることもあります。例えば、尊敬する先輩や信頼する友人から、「今、こういうプロジェクトを抱えていて、ぜひとも成功させたいので、お前の力を借りたい」と頼まれた場合です。「自分という人間を見込んで依頼される」というのは、弁護士冥利に尽きるものです。勧誘してくれている人との関係が深ければ深いほどに、履歴書の見栄えなど考えることなく、「一肌脱ぐ」というのも、納得感のあるキャリア選択のひとつです。

 そのプロジェクトが、IPOであっても、官庁からのライセンス取得であっても、巨大な訴訟であっても、法改正に向けた活動であっても、法務の責任者として対応して、それを乗り切り、成功することができれば、質的に、一皮むけた存在になることができます。また、仮に、それが成功しなかったとしても、法務のキャリアとしては、失点になるわけではありません。「次の転職活動」においては、「こういう恩義ある人に誘われてこういう手伝いをしたが、運悪く、こういう結果になってしまった」という合理的な説明ができれば、むしろ、それは有意な経験としてカウントしてもらえるはずだと思います(そのような評価をしてくれる転職先を探すべきです)。

以上

 

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