公取委、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法の考え方」を公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 矢 上 浄 子
1 本ガイドラインの公表の経緯・目的
近年、異常気象の頻発もあり、国内外で気候変動の問題が広く認識されるようになった。企業においても、経済成長と脱炭素化による環境負荷の低減を両立できる「グリーン社会」の実現に向け、積極的な取組が模索されている。このような企業の取組を競争政策の観点から後押しするため、経済産業省は2022年3月に「グリーン社会の実現に向けた競争政策研究会」を立ち上げ、競争政策上の論点の検討を行った。
公正取引委員会(以下「公取委」という。)もまた、2022年10月に「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関するガイドライン検討会」を開催し、ガイドラインの整備に向けた検討を行った上で、2023年1月13日に「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法の考え方」(案)を公表した。そして2023年3月31日、同案に対するパブリックコメントを踏まえたガイドライン(以下「グリーンガイドライン」という。)を公表するに至った。
本ガイドラインの目的は、事業者および事業者団体(以下「事業者等」という。)によるグリーン社会の実現に向けた様々な取組について、独占禁止法上問題となる場合、ならない場合の具体的な想定例を示し、競争制限的な行為を未然に防止するとともに、事業者等にとっての透明性および予見可能性を高めることで、事業者等による取組を促進することにあるとされる。
なお、本ガイドラインは、EUにおけるガイドラインのサステナビリティ協定のように、要件を満たす取組であれば適用除外を認めるという建付けとはなっていない。パブリックコメントの中には、日本でも適用除外を認めるべきとの指摘も複数あったところであるが、公取委はこのようなコメントに対し、①日本で適用除外制度が導入されたとしても、海外当局に違法と判断されるおそれがあること、②グリーンの取組を装ったカルテル(いわゆるグリーンウォッシュ)の危険を高めること、③適用除外制度の在り方によっては、適用除外への該当性の検討も必要となり事業者の負担が増すことを挙げ、適当でないとの説明を行っている。
2 本ガイドラインの構成
本ガイドラインは、表1のとおり5つの部分から構成され、このうち第1から第4では、事業者等によるグリーン社会の実現に向けた具体的な取組に関し、独占禁止法上の考え方の枠組みを示した上で、具体的な想定例と解説を加えている。また、第5では、事業者等が実施しようとする具体的な取組について公取委に対し事前相談を行う際の、具体的なガイダンスを示している。
表1:
出典:「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法の考え方」
概要版4頁(公取委、2023年3月)[1]
3 独占禁止法上問題となる行為の例示について
本ガイドラインでは、グリーン社会の実現に向けた事業者等による取組の「多くは独占禁止法上問題となることなく実施することが可能であり、事業者等が共同の取組を行ったことをもって、直ちに独占禁止法に違反するものではない」と明示しつつ、「独占禁止法上問題となる行為」、「独占禁止法上問題とならないよう留意を要する行為」等について想定例を挙げて説明している。表2は、このうち「独占禁止法上問題となる行為」として挙げられた想定例を挙げたものである。なお、パブリックコメントを踏まえ、「独占禁止法上問題となる」とされる想定例に該当する行為であっても、様々な要素を踏まえ独占禁止法上問題ないと例外的に判断し得る場合もあるとの説明が追記されている点に留意を要する。
表2:
行為類型 |
独占禁止法上問題となる想定例 |
共同の取組 |
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取引先事業者の事業活動に対する制限・取引先の選択にかかる行為 |
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優越的地位の濫用 |
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企業結合 |
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出典:同上
4 まとめ
本ガイドラインは、これまで複数のガイドラインにより示されてきた公取委の独占禁止法の適用に関する見解を、グリーン社会の実現のための取組という観点から整理した上で、具体的な想定例を数多く取り入れたものとなっており、場面に応じて参照しやすい構成となっている。特に、事業者等による共同の取組に関しては、公取委から包括的なガイドラインが公表されるに至っていなかったことから、グリーン社会の実現という文脈以外でも、事業者間の業務提携に対する独占禁止法の適用に関し公取委の判断枠組みや考慮要素が示されたものとして、一定の参照価値を持つと思われる。
もっとも、本ガイドラインは、グリーン社会の実現に向けた取組についてセーフハーバーを設定するものでなく、既存の判断枠組みを緩和するものではない。グリーン社会の実現に向けた取組には、業界全体、または業界の主要プレイヤーが中心となる場合が多いことや、効率性の向上が必ずしも直接需要者に還元されないといった特殊性があることに鑑みれば、従来の判断枠組みを踏襲しただけでは、事業者等による取組を後押しするには十分でないようにも思われる。これらの点に関しては、引き続き事例の蓄積を踏まえた今後の議論が待たれるところである。
以 上
[1] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230331/bessi2.pdf
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(やがみ・きよこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2002年ニューヨーク州弁護士登録、2008年弁護士(第二東京)登録。主に独占禁止法・競争法、クロスボーダーM&A・ジョイントベンチャー、国際紛争等の分野でアドバイスを行う。神戸大学大学院法学研究科及び早稲田大学大学院法務研究科で非常勤講師を務める。プロボノ活動にも積極的に取り組む。
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