米国著作権局と議会図書館、AIと著作権に関するパブリックコメントを募集
アンダーソン・毛利・友常法律事務所[*]
弁護士・ニューヨーク州弁護士 後 藤 未 来
中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石 瀛
1 はじめに
2023年3月16日、米国著作権局はAIがもたらす著作権および政策上の問題を検討する新たな取り組みを開始した[1]。その重要な一歩として、2023年8月30日、AIと著作権に関するパブリックコメントの募集(以下、「本意見募集」という。)を開始した(募集期間は、当初2023年10月18日までとされたが、その後、同年10月30日まで延期された。)。
かつては人間のみがなし得るかのように思われた高度な表現・創作行為であるが、近時は、ChatGPTやMidjourney等の生成AIが出力する文章や画像・旋律等が人間によるものと見分けがつかない段階にまで達しているようにも思われる。このような状況を踏まえ、各国において、人間の創作とAIの「創作」と著作権等を巡る問題について議論を深める動きがみられる。本意見募集においても、AIの「創作」を巡る学習、透明性、著作物性などの論点が取り上げられている。
本稿では、最近の米国におけるAIと著作権を巡る議論の一端を紹介しつつ、本意見募集の主な内容を概観する。
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2 米国におけるAIと著作権を巡る議論
AIと著作権を巡る主な論点の一つは、AIを用いて生成されたコンテンツ(文章、画像等)に対して著作権が認められるか、というものである。この点について、米国において、著作権の保護の対象となるのは人間による創作物に限られ、人間とAIが「共作」した場合には人間による創作部分に限り著作権で保護される、というのが基本的な考え方である。この点が実際に問題となった最近の事件として、Stephen THALER氏が米著作権局を相手に訴えた事件(コロンビア特別区連邦地方裁判所に係属)がある[2]。この事件では、THALER氏が、自ら開発した「Creativity Machine」と呼ばれるAIシステムによって生成された画像に対して著作権が認められるかが争われた。
出典:「WESTLAW掲載の略式意見」脚注2参照
2023年8月18日、担当裁判官は、上記の画像の著作物性を否定する判断(Memorandum Opinion=略式意見)を下した[3]。この略式意見によると、作品を具体的な媒体に「定着させる」作業は、その「著者によってまたは著者の権限のもとで」行う必要がある。問題となった画像は、原告のTHALER氏が自認するとおり「機械によって自律的に作成された」ものであったことから、著作物性が否定された。他方で、当該略式意見は、芸術家らがその創作活動にAIを取り入れ、新しい芸術作品の創作に利用することで、新たな革新が生じつつある現実を踏まえ、人間がAIを利用して作品が生成された場合に「著者」と認められるためにどのような貢献が必要か、また新時代の創作活動を奨励するために著作権制度をどう運用するべきか等、重要な課題が残されている旨にも言及している。
なお、米著作権局が2023年3月16日に公表した著作権登録ガイダンス[4]によると、著作権の登録を申請しようとする者は、対象作品にAI生成コンテンツを含むか否かを開示・宣誓することが求められる。
3 本意見募集の対象とされる主な論点
米著作権局の本意見募集は64問の質問からなり、本稿では、以下の4つの観点からその概要を紹介する。
⑴ 著作物を用いた学習について
学習に用いられる素材 |
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学習の態様、影響等 |
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学習に用いられる著作物の著作権者の保護等 |
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⑵ 使用した著作物に関する記録と透明性
著作物の記録 |
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著作物の使用に関する通知 |
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⑶ 著作物性
AI作品の著作物性 |
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著作権法の修正要否等 |
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⑷ 侵害に関する問題
AI作品による侵害 |
|
侵害にかかる責任分担 |
|
4 おわりに
本意見募集で取り上げられる各論点について、今後どのような議論の経過をたどるのか現時点では予断を許さないが、以下、いくつかの所感を述べておきたい。
本意見募集の内容に照らすと、「著作権の保護対象となるためには、人間による創作的な寄与が要される」という基本的な枠組み自体が変更されることはないものと推測される。この点は、日本においても同様であろう。他方、今後、AIを利用して生成されたコンテンツの流通がますます増大していくことはほぼ間違いないものと予想される。かかる状況で、自身が流通させるコンテンツについて著作権保護を図りたい場合、(AIの利用有無、程度にかかわらず)、その創作過程における人間の関与を証明する証拠(手稿、写真、ビデオ、またAIを使用した場合はAIへのコマンドや指示の記録等)を保存することが重要になろう。
本意見募集で取り上げられる論点は多様かつ広範であり、米国において、本意見募集の結果を踏まえたAIと著作権に関して、近い将来、何らかの立法化や判例法の発展等の動きが生じる可能性も否定できず、今後の動向が注目される。
以上
[1] https://www.copyright.gov/newsnet/2023/1004.html
[2] 「Thaler v. Perlmutter, 2023 WL 5333236」https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/district-of-columbia/dcdce/1:2022cv01564/243956/24/
[3] 脚注[2]と同じ
[4] https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2023-03-16/pdf/2023-05321.pdf
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(せき・いん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング
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