経産省、データの越境移転に関する研究会 報告書
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 中 崎 尚
1 DFFTとは
DFFTとは、信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust)の略称であり、「プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進を目指す」というコンセプトである。2019年のダボス会議で提唱されて以後、各国首脳会議、各国担当大臣会合等の外交の場で議論が続けられており、2023年4月末に群馬県高崎市において開催されたG7デジタル・技術大臣会合でも重要課題として取り上げられた。[1]
2 報告書の位置づけ
経済産業省「データの越境移転に関する研究会(以下、「研究会」)」は、2022年2月28日および2023年1月31日に、それぞれ「データの越境移転に関する研究会 報告書」を公表した(以下、前者を「昨年度報告書」[2]、、後者を「今年度報告書」[3]という)。
研究会は、昨年度報告書において、「日本政府は、データの越境移転が生み出す経済的・社会的価値や効用を広く世界に分配し、健全な世界経済と社会の発展を促進していくために何が必要なのか、という原点に立ち戻り、データの自由流通を成立させる基盤としての『信頼』に基づく自由な国際データフローのビジョン『Data Free Flow with Trust(DFFT)』を提唱した。」と述べ、DFFTの枠組みの下で、データを活用し、デジタル経済をグローバルに活性化していくことは、個人のプライバシー、表現の自由、サイバーセキュリティ、営業機密や知的財産権の保護など、様々な社会利益に密接に関わるものであり、これらの様々な社会利益とトレードオフの関係にあるのではないことを強調している。昨年度報告書では、研究会は、DFFT の具体化における基本姿勢は「プラグマティズム」であることを明示し、「データの円滑な越境移転を確保することが必要である」というゴールについて関係者間で合意した上で、教条的なイデオロギーや政策的要請の優先順位に関する対立を戦略的に避けることであり、また実際にデータを流していくために効果的な協力を進めて行くべく、ステークホルダー間の相互理解を深め、柔軟な行動原則に基づいて、具体的な成果を追及していく姿勢を示した。その上で、昨年度報告書は、DFFT の具体化に向けて、必要な信頼を確保するための具体的な仕組みや制度の検討を進めるべく、「経済成長や社会的繁栄を持続していくために、必要なデータを越境移転させる」というゴールから逆算し、実際にデータを利活用する主体がデータを越境移転させる際の「課題」を特定し、それらの課題に対応するために、DFFT の具体化の核となる領域として 5つの領域を特定した。[4]
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(なかざき・たかし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。
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