SH4466 顔識別技術をめぐる議論の展開とClearview AI 井上乾介/膝舘朗人(2023/06/01)

取引法務個人情報保護法

顔識別技術をめぐる議論の展開とClearview AI

 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業

弁護士・カリフォルニア州弁護士 井 上 乾 介

弁護士 膝 舘 朗 人

 

1 はじめに

 顔識別技術[1]の利用が広まるにつれ、規制の動きも全世界的に強まっている。

 このうち、欧州連合(以下、「EU」という。)においては、欧州議会の2つの委員会で人工知能(以下、「AI」という。)の規則案[2](以下、「AI規則案」という。)が承認され、顔識別を含む生体識別技術に対する規制が定められる見通しとなった[3][4]

 また、個人データ保護の側面から、2023年5月17日、欧州データ保護会議(以下、「EDPB」という。)は『法執行分野における顔識別技術の利用に関するガイドライン』[5](以下、「本ガイドライン」という。)の最終版を採択し、法執行機関による顔識別技術の使用に関する指針を打ち出した[6]

 米国においても、顔識別技術の規制に関連する州レベルの規制が増加する傾向にある。

 こうした議論の呼び水の一つとなっているのが、インターネット上から収集した個人の顔画像データをもとに個人の顔を識別するデータベースを作成、販売するClearview AI社[7]の存在である。

 同社に対しては、この度新たにフランスおよびオーストリアにおいてEU一般データ保護規則[8](以下、「GDPR」という。)違反を理由とする制裁およびGDPR違反を認める決定が行われた。

 そこで、本稿では、各国におけるClearview AIへの対応状況を紹介しつつ、EUおよび米国における顔識別技術をめぐる最新の議論の動向を概観する。

 

2 EUと米国における顔識別技術をめぐる議論の状況とClearviewへの対応

 ⑴ EU各国でのClearview AIに対する制裁および規制

  Clearview AIに対しては、昨年よりEU各国においてGDPR違反を理由とする制裁や規制が行われてきた。代表的なものは以下のとおりである。

 

日付 データ保護当局 制裁内容
2022年2月10日 イタリア GDPR違反を理由として、2000万ユーロの制裁金を課した。同時に同当局は、イタリア国内の個人の生体データを化の識別システムから削除することも命じている[9]
2022年7月10日 ギリシャ GDPRへの違反を理由にClearview AIに対して2000万ユーロの制裁金を科し、同国内のデータ主体の個人データを削除することを命じた[10]
2022年10月20日 フランス 2000万ユーロの制裁金の支払い並びにフランス国内に居住する個人のデータ収集と処理の停止および収集したデータの削除を命じた[11]
2023年5月10日 オーストリア Clearview AIによるGDPR違反を侵害する旨の決定を公表した。[12]

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(いのうえ・けんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。

(ひざたて・あきと)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。東京大学法学部卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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