タイ:個人情報保護法(下)
――完全施行から1年を振り返る――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 翔 平
4 未制定の下位規則がもたらす影響等
⑴ 個人データの域外移転の方法
PDPA上、データ管理者が個人データを外国に移転する場合の方法はいくつか規定されており、具体的な方法は下位規則に委ねられているものもあるが、下位規則の制定は進んでいない。本稿執筆時点で実際に利用可能な方法は、データ主体の同意を取得して移転する方法(データ主体に対して、(十分性認定を受けていないが故に)移転先の国の個人データ保護基準が不十分であることについての通知を行うことが条件)となる。PDPA上では、十分性認定を受けた国への移転の場合には、データ主体の同意なく個人データを国外に移転することが可能であるが、十分性認定を受けた国を明らかにした下位規則(いわゆるホワイトリスト)が制定されていないため、利用できない。また、前述のとおり、2022年9月29日に個人データの域外移転に関する下位規則案が公表されている。この中では、当局より、拘束的企業準則(「BCR」)の承認を受けることにより、外国にある関連会社等へ個人データを移転することを可能とすることが想定されている(なお、BCRの利用はPDPA上、域外移転の一つの方法として規定されている。)。また、PDPA上は明示的に許容されていないものの、かかる下位規則案の中では、移転元と移転先が標準契約条項(SCC)を締結することで、域外移転を可能とすることが予定されている。もっとも、前述のとおり、本稿執筆時点でかかる下位規則は制定されていない。
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(なか・しょうへい)
2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。
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