ベトナム:社会保険の加入の強制化(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
- Q:外国人の社会保険の加入の強制化に関するガイドラインがついに公布されたと聞きました。最終的に、ベトナムで就労する外国人は全て社会保険の加入の対象となることになったのでしょうか。その他の留意点についても教えてください。
- A:2018年10月にベトナム政府が公布した労働問題等のガイドラインの中に、ベトナムで就労する外国人の労働者に係る強制社会保険に関する社会保険法及び労働安全衛生法の詳細を規定する2018年10月15日付政令第143/2018/ND-CP号(「政令143号」)が含まれており、この政令は2018年12月1日に施行されます。これによりベトナムの強制社会保険の対象となる外国人労働者の範囲及び内容が明確化されました。
Ⅱ 保険料の負担
政令143号により労働者が納付すべきこととなる強制社会保険は、疾病保険、妊娠出産保険、労働災害・職業病保険、退職年金、遺族給付保険です。なお、これらに加え、外国人労働者の失業保険及び健康保険の加入義務の有無については、職業法及び健康保険法において規定されています。
強制社会保険に加入する場合の雇用者及び外国人労働者に対して適用される強制社会保険料の負担比率は、ベトナム人労働者の場合と同様です。また、社会保険を計算する基礎となる月給の計算方法についても、前回のこの労働法講座で紹介したベトナム人の場合の社会保険の計算と同様です。なお、政令143号は2018年12月1日に施行されますが、社会保険のうち、退職年金及び遺族給付金の保険料納付義務については2022年1月1日までの間留保されており、同日からの施行となります。これは、社会保険料の二重負担を回避するための社会保障協定をベトナムが他の国との間で締結するまでの間の期間は負担率の高い退職年金及び遺族給付金の保険料の納付義務については免除しておくという趣旨と思われます。
負担率の詳細については、以下の表のとおりです。(単位:%)
外国人労働者 (2018年12月1日~) |
外国人労働者 (2022年1月1日~) |
(参考) ベトナム人労働者 |
||||
雇用者負担 | 労働者負担 | 雇用者負担 | 労働者負担 | 雇用者負担 | 労働者負担 | |
社会保険 | 3.5 | 0 | 17.5 | 8 | 17.5 | 8 |
健康保険 | 3 | 1.5 | 3 | 1.5 | 3 | 1.5 |
失業保険 | N/A | N/A | N/A | N/A | 1 | 1 |
合計 | 6.5 | 1.5 | 20.5 | 9.5 | 21.5 | 10.5 |
社会保険請求手続き・条件、加入期間の制限等、その他の強制社会保険に関する項目は、ベトナム人の場合と同様であり、社会保険法又は労働衛生安全法の規定がそのまま適用されます。
Ⅲ 社会保険一時給付金
2022年以降の話になりますが、外国人労働者が退職年金に加入し保険料を納付した場合、以下のいずれかの場合に社会保険給付金を一時金として受け取ることを求めることができます(政令143号第9条第6項)。
- ① 退職年金受給の年齢要件を満たしているが、社会保険料納付期間が20年未満である場合
- ② 癌、ポリオ、肝硬変、ハンセン病、重度の肺結核、HIV/AIDS等生命を脅かす疾病、又は保健省が定める疾病のいずれかに罹患した場合
- ③ 退職年金受給の年齢要件を満たしているが、ベトナムに引き続き居住しないこととした場合
- ④ 労働契約が解除され、又は労働許可証、実務資格要件充足証書もしくは実務資格ライセンスの期限が終了したが延長されない場合
すなわち、外国人労働者がベトナムでの勤務を終了して帰国する場合には、一定の手続きを踏んで一時給付金を受け取ることができることになっています。