医療広告規制の概要
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 加 納 さやか
弁護士 横 田 瑛 弓
1 はじめに
2023年10月12日、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針の一部改正について」(医政1012第1号厚生労働省医政局長通知[1](以下「本通知」という。))が発出され、医療広告[2]として広告が可能な事項に「補綴歯科[3]」が加えられた。医療広告は、生命身体にかかわる情報となり得、その重大性から他の業種、業界に比較して厳しい規制が設けられており[4]、禁止される広告や広告可能な事項等が詳細に定められている。そこで、本稿においては、本通知を出発点に、医療広告の規制概要について紹介する。
2 医療広告に関する規制
⑴ 本通知
本通知は、医療法が広告可能な事項として認めている事項に、「補綴歯科」を追加し、この用語を歯科の専門医資格として記載することを認めるものである。
医療広告規制は、時代に対応した改正が比較的頻繁に行われている。たとえば2017年の医療法改正以前は医療機関のウェブサイトは法規制の対象外[5]で、関係団体等による自主規制[6]によるのみであった。しかし、美容医療サービスに関する消費者トラブルの相談件数が増加したことを背景に、医療機関のウェブサイト等についても新たに規制対象とし、また違反広告には中止・是正命令および罰則を課すことができるよう法令が整備された。本通知は、日本歯科専門医機構において、「補綴歯科」について専門医制度規則等が承認され、「補綴歯科」が基本領域として認定され、「補綴歯科専門医」が認定開始となったことに対応したものである[7]。
⑵ 規制概要
広告一般に関しては、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)により規制が行われており、実際の物よりよい商品であるかの如く宣伝[8]したり、商品宣伝のため不当に効果な景品を提供[9]したりして消費者がする商品選択に悪影響を及ぼす広告が禁止されている。医療広告に関しては、①医療は人の生命・身体にかかわるサービスであり、不当な広告により受け手側が誘引され、不適当なサービスを受けた場合の被害は、他の分野に比べ著しい、②医療はきわめて専門性の高いサービスであり、広告の受け手は、その文言から提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難であるという特殊性があることにかんがみ、国民・患者保護の観点から医療法による規制もなされている。
⑶ 規制対象となる広告
法令上は、規制対象となる広告は「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」[10]と規定されている。なお、医療法に基づく規制の詳細な解釈を示すものとして「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」[11](以下「医療広告ガイドライン」という。)があり、医療広告ガイドラインは、同文言を①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)、②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)の2つの要素に分解している[12]。なお、①は、広告による宣伝効果を期待する病院等の利益を期待してなされているかにより判断される。たとえば新聞記載の特定病院の紹介であっても、記事であれば①を満たさないが、広告部分であれば①を満たすことになる。SNSへの書き込みであっても、個人的な書き込みであれば①を満たさないが、同内容であっても医療機関等による依頼を受けていれば①を満たすことになる。
広告規制の対象となる媒体の例としては、チラシ、パンフレット、Eメール、インターネット上の広告等があり、一方、通常医療広告と見なされない例としては、学術論文、学術発表等および院内掲示、院内で配布するパンフレット等が挙げられている[13]。
広告内容の規制としては、医療広告一般につきその広告類型として禁止される類型[14]と広告として掲載できる事項[15]が定められている。
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(かのう・さやか)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2008年東京大学工学部建築学科卒業。2011年東京大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。専門は企業法務、eスポーツ/ゲーム、エネルギー。主な業務として企業の買収・合併・分割等のサポートや、企業の取引・規制等に関する助言を行っている。
(よこた・えみ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2021年東京大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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