SH4698 吸収合併消滅会社の株主が合併契約承認のための株主総会に先立って会社に対して反対の旨の委任状を送付したことが会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知に当たるとされた事例(最一小決令和5年10月26日) 生方紀裕/野村直弘(2023/11/21)

M&A・組織再編(買収防衛含む)

;吸収合併消滅会社の株主が合併契約承認のための株主総会に先立って会社に対して反対の旨の委任状を送付したことが会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知に当たるとされた事例
(最一小決令和5年10月26日)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 生 方 紀 裕

弁護士 野 村 直 弘

 

1 はじめに

 会社法は、会社が株主の利益に重大な影響を及ぼす一定の行為をする場合、それに反対する株主に、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求する権利(株式買取請求権)を認めている。株主に投下資本を回収して会社から退出する機会を与える制度である。

 たとえば、吸収合併等[1]をする消滅株式会社等[2]において、「反対株主」は、一定の要件の下で株式買取請求権を行使できる(会社法785条1項)。吸収合併等のために株主総会の承認を要する場合、議決権を行使できる株主が「反対株主」となるためには、当該総会に先立って吸収合併等に反対する旨を消滅株式会社等に通知し(以下「反対通知」という。)、かつ、当該総会において反対の議決権を行使する必要がある(同条2項1号イ)。

 令和5年10月26日の最高裁第一小法廷決定[3](以下「本決定」という。)は、吸収合併消滅株式会社の株主が、株主総会に先立って吸収合併に反対する旨の委任状を会社に送付したことをもって、反対通知に当たることを認めた。

 

2 事案の概要および争点

⑴ 事案と審級の概要

 本決定にかかる事案(以下「本件」という。)において、X(抗告人)は、非上場会社であるA社の株主であったが、A社を消滅会社としB社を存続会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)に際して、A社に対し株式買取請求権を行使した。しかし、価格の決定について協議が調わなかったため、Xは、価格決定の申立て(会社法786条2項。以下「本件申立て」という。)をした。

 原々審(名古屋地裁)は、Xは反対株主には当たらないとして、本件申立ては不適法で却下すべきと判断し、抗告審である原審(名古屋高裁)も抗告を棄却した。本決定は、これに対する許可抗告事件である。

⑵ 本件の争点

 A社は、本件吸収合併にかかる合併契約承認の議案(以下「本件議案」という。)について臨時株主総会(以下「本件総会」という。)を開催するため、Xに招集通知を発するとともに、委任状用紙を同封して議決権の代理行使を勧誘した。

 上記の委任状用紙には、宛先としてA社が印字されるとともに、「私は、______を代理人と定め下記の権限を委任いたします。」(注:______は空白)、「令和2年11月13日開催の貴社臨時株主総会及びその継続会または延会に出席して下記の議案につき私の指示(〇印で表示)にしたがって、議決権を行使すること。」等が印字され、本件議案について「賛」または「否」のいずれかに○印を付ける欄が設けられていた。

 Xは、当該委任状用紙を用いて、代理人としてA社の代表取締役の氏名を記載し、本件議案に関する賛否欄の「否」に○印を付け、欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記(以下「本件付記」という。)をするなどして委任状(以下「本件委任状」という。)を作成し、A社に送付した。

 このような経緯の下、本件では、XがA社に本件委任状を送付したことが反対通知に当たるか(Xは反対株主に当たるか)が争われた。

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(うぶかた・のりひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2006年東京大学法学部卒業。2007年弁護士登録(第二東京)。2013年ミシガン大学ロースクール修了(LL.M., in International Taxation)。2013年~2014年豪州ブリスベンのClayton Utz法律事務所勤務。2016年から早稲田大学法務教育研究センター講師(租税法担当)。主に、株主総会指導、敵対的買収防衛、アクティビスト株主対応を含む一般企業法務、M&A及び商事訴訟などを取り扱う。

 

(のむら・なおひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2013年東京大学法学部卒業。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。主に、コーポレート、M&A、人事・労務、紛争解決に関する業務を広く取り扱う。プロボノ活動にも注力している。

 

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