SH4701 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は憲法13条に違反すると判示した最高裁決定(最大決令和5年10月25日) 齋藤宏一/野村直弘(2023/11/24)

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性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は憲法13条に違反すると判示した最高裁決定(最大決令和5年10月25日)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 齋 藤 宏 一

弁護士 野 村 直 弘

 

1 はじめに

 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項4号(以下「本件規定」という。)は、性同一性障害者が性別の取扱いの変更の審判(以下「性別変更審判」という。)を請求するための要件の一つとして、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を定めている。

 社会的にも大きな注目を集めた令和5年10月25日の最高裁大法廷決定[1](以下「本決定」という。)は、本件規定が憲法13条に違反し無効であると判示した。

 

2 特例法と過去の最高裁決定の概要

 特例法は、性同一性障害を有する者が社会生活上様々な問題を抱えている状況で、戸籍上の性別の変更を可能とするため、平成15年(2003年)に制定された。

 特例法2条は、「性同一性障害者」を、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの」と定義する。

 そして、特例法3条1項は、1号から5号において、性別変更審判を請求するために性同一性障害者が満たすべき5つの要件を定めている。2号と3号のほか、4号(本件規定)も、過去に最高裁が合憲と判断していた。

(表1)特例法3条1項が定める5要件

  要  件 改正状況 最高裁の判断
1号 18歳以上であること 制定当時は「20歳以上であること」 ⇒平成30年改正で民法の成年年齢の引下げに対応
2号 現に婚姻をしていないこと 憲法13条、14条1項、24条に違反しない[2]
3号 現に未成年の子がいないこと 制定当時は「現に子がいないこと」 ⇒平成20年改正で「未成年の」子に限定 憲法13条、14条1項に違反しない[3]
4号 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること 憲法13条、14条1項に違反しない[4] ⇒本決定で変更
5号 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

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(さいとう・こういち)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。1999年東京大学法学部卒業。2001年弁護士登録(第一東京)。2008年ハーバード・ロースクール(LLM)修了、2008-2009年ハーバード・ロースクール客員研究員。2009年ニューヨーク州弁護士登録。企業法務、特にインセンティブ(株式)報酬制度やM&Aに関連する相談に対応するほか、ビジネスと人権にも注力している。

 

(のむら・なおひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2013年東京大学法学部卒業。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。主に、コーポレート、M&A、人事・労務、紛争解決に関する業務を広く取り扱う。プロボノ活動にも注力している。

 

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