デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会
〔ワーキンググループ中間とりまとめ(案)〕
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 後 藤 未 来
弁護士 張 超 鵬
1 はじめに
近年のデジタル技術の急速な進展に伴い、歴史上類を見ないほど大量の情報がデジタル空間において飛び交うようになっている。特に、生成AIやメタバース等の新たな技術やサービスの進展・普及により、デジタル空間がさらに拡大・深化し、また、デジタル空間におけるステークホルダーも多様化しつつある中、実空間にも影響を及ぼし得る新たな課題も発生している。デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた今後の対応方針と具体的な方策について検討するために、総務省は、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」を開催している[1]。
さらに、専門的な見地から事業者のビジネスモデルに起因する課題への対応等を検討するために、上記検討会の下にワーキンググループが設置されている[2]。
約半年間の議論を経て、2024年7月1日には、中間的な成果として、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」ワーキンググループ中間とりまとめ(案)(以下、「中間とりまとめ(案)」)が公表された。
中間とりまとめ(案)の第1章では、検討・議論すべき課題として、以下の5つを挙げている。
1 | 情報伝送PF事業者[3]による偽・誤情報[4]への対応の在り方 |
2 | 情報伝送PFサービス[5]が与える情報流通の健全性への影響の軽減に向けた方策の在り方 |
3 | マルチステークホルダーによる連携・協力の枠組み整備の在り方 |
4 | 広告の質の確保を通じた情報流通の健全性確保の在り方 |
5 | 質の高いメディアへの広告配信に資する取組を通じた情報流通の健全性確保の在り方 |
その上で、第2章~第6章において、それぞれ上記1~5の課題について検討している。以下では、その検討内容を概観する。
2 第2章――情報伝送PF事業者による偽・誤情報への対応の在り方
⑴ 課題の所在
まず、中間とりまとめ(案)は、SNSや動画投稿・共有サービス等の情報伝送PFサービスにおいて、偽・誤情報が蔓延し、それにより人の生命、身体、財産ないし民主主義に悪影響を与えている現象の原因を分析している。
分析の結果、これらの現象は、下記のとおり、情報伝送PFサービス自体の特徴と、情報伝送PFサービスないしデジタル空間を支える経済モデルの特徴とが絡み合って生み出したものとされている。
情報伝送PFサービスの特徴 |
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経済モデル(アテンション・エコノミー)の特徴 |
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つまり、すでに情報過多状態になっているデジタル空間において、広告収入等のために流通・拡散しやすい情報を発信しようとする情報の発信者には、正確性が担保されないが人目を惹きやすい情報を発信するインセンティブが存在するし、実際、情報伝送PFサービスの上記の特徴も、情報の急速な拡散を可能にしている。流通・拡散しやすい情報を発信するインセンティブと情報の急速な拡散の実現可能性が組み合わさることにより、デジタル空間における粗悪な情報の大量拡散が一段と先鋭化している。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(ちょう・ちょうほう)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト弁護士。2016年復旦大学(中国)法学部卒業。2019年早稲田大学大学院法学研究科知的財産権法専攻修士課程修了。2021年大阪大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2017年中国司法試験合格。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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