インド:日本企業への影響はあるか?
――インドにおけるSBO報告に関する義務違反に基づく制裁(2)――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
3 SBOとは
⑵ 保有形態-直接的保有と間接的保有-
客観的テストにおいて、間接的に権利または資格を全く有しない個人はSBOに該当しない。そのため、直接的にのみ株式や議決権等を有している個人はSBOに該当しない。主観的テストにおいても、個人が直接的保有のみを通じて連載第1回の3⑴(エ)記載の要件に該当する場合はSBOに該当しない。SBO規則上、直接的保有と間接的保有は以下の基準で判断する。
① 直接的保有
個人が以下のいずれかの基準に該当する場合、当該個人は、報告会社に対して直接的に権利または資格を有する。
(ア) 当該個人の名義で当該権利または資格を表章する報告会社の株式が保有されている。
(イ) 当該個人がインド会社法第89条第2項に基づき報告会社の株式の実質的持分を保有または取得し、報告会社に対してその旨を申告している[1]。
② 間接的保有
個人が報告会社の株主に関して以下のいずれかの基準に該当する場合、当該個人は報告会社に対して間接的な権利または資格を有する。報告会社の株主の種類に応じて基準が設けられている。
(ア) 報告会社の株主が法人である場合(インド国内外いずれで設立または登録されているかを問わないが、有限責任組合を除く。)
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- 当該株主の持分の過半数を有する個人
- 当該株主の最終的な親会社(インド国内外いずれで設立または登録されているかを問わない。)の持分の過半数を有する個人
この場合において、以下のいずれかの基準に該当すれば持分の過半数を有することになる。下記(イ)においても同じである。
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- 法人の資本株式資本の過半数を有する。
- 法人の議決権の過半数を有する。
- 法人による分配可能な配当その他の分配の50%超を受領し、またはこれらに参加する権利を有する。
(イ) 報告会社の株主が組合[2]である場合
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- 組合員である個人
- 組合の組合員である法人の持分の過半数を有する個人
- 組合の組合員である法人の最終的な親会社の持分の過半数を有する個人
(ウ) 報告会社の株主が信託である場合
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- 裁量信託または公益信託の場合、受託者である個人
- 特定信託の場合、受益者である個人
- 撤回可能信託の場合、委託者である個人
(エ) 報告会社の株主が、FATFの加盟国に所在するプールされた資金の投資ビークルまたはプールされた資金の投資ビークルが支配するエンティティである場合であって、当該加盟国の証券市場の監督当局が証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions、通称「IOSCO」)に加盟している場合
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- プールされた資金の投資ビークルのジェネラル・パートナーである個人
- プールされた資金の投資ビークルのインベストメント・マネジャーである個人
- プールされた資金の投資ビークルのインベストメント・マネジャーが法人または組合である場合、CEOである個人
(オ) 報告会社の株主が上記(エ)に該当しない法域に所在するプールされた資金の投資ビークルまたはプールされた資金の投資ビークルが支配するエンティティである場合、上記(ア)ないし(ウ)に該当する個人
4 SBOの義務
⑴ 報告会社への申告義務
ツイン・テストのいずれかに基づき、報告会社のSBOに該当する個人は、SBOになった日(実質的支配権を取得した日)から30日以内にSBO規則所定の様式(Form No. BEN-1)で報告会社に申告しなければならず、実質的支配権に変更があった場合にも変更から30日以内に申告しなければならない。
⑵ 報告会社への情報提供
報告会社はSBOに該当すると考える者等に情報提供を要求しなければならないが、要求を受けた者は30日以内に要求された情報を提供しなければならない。
(3)につづく
[1] インド会社法第89条第2項に基づき、会社の株式について実質的持分を保有または取得する者は、所定の事項を所定の様式で会社に申告しなければならない。
[2] 1932年インド組合法(Indian Partnership Act, 1932)に基づき登録された組合または2008年有限責任組合法(Limited Liability Partnership Act, 2008)に基づき登録された有限責任組合をいう。
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(やまもと・ただし)
2003年弁護士登録。2009年から2017年にかけて、インド・シンガポールで勤務。2015年からヤンゴンにて随時執務。新興国を中心に海外進出、各種リーガル・サポートに携わっている。
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