SH5168 公取委、カバーの「不当なやり直し」「支払遅延」を巡り下請法違反で勧告・指導 ――VTuber制作・配信大手によるアバター作成等委託事案、無償やり直し7回のうえ当初受領から619日経過の支払事例も(2024/10/30)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

公取委、カバーの「不当なやり直し」「支払遅延」を巡り
下請法違反で勧告・指導
――VTuber制作・配信大手によるアバター作成等委託事案、無償やり直し7回のうえ
当初受領から619日経過の支払事例も――

 

 公正取引委員会は10月25日、いわゆるVTuber動画の制作・配信大手としてVTuberプロダクション「ホロライブプロダクション」を運営するカバー(本店・東京都港区。東証グロース上場)において、VTuber動画などに用いるイラスト、動画用2Dモデル・3Dモデル(いわゆるアバター)の作成を下請事業者に委託しているところ、(ア)下請事業者23名に対し、給付受領後に発注書で示された仕様などからは作業が必要であることが分からないやり直しを無償でさせていた下請代金支払遅延等防止法4条2項4号(不当なやり直しの禁止)違反の行為が認められたとして勧告を、また(イ)下請事業者29名に対し、給付を受領しているにもかかわらず支払期日までに下請代金を支払っていなかった同条1項2号(下請代金の支払遅延の禁止)違反の行為が認められたとして勧告および指導を、それぞれ同日行ったと発表した。

 公取委の認定によると、上記(ア)に該当するやり直しは2022年4月~2023年12月の間に合計243回に及ぶ。公取委は違反事実を説明するなかで次のように「事例」3例を掲げた。(i)2022年4月18日に給付を受領、同年9月15日までの間に無償で7回(うち3回は検査期間経過後のやり直し。当該3回のうち2回は「制作完了」通知後に当該情報成果物を利用するVTuber側からの修正希望を理由としてやり直しをさせた)、(ii)2022年11月21日に給付を受領、2023年5月23日までの間に無償で5回(いずれも検査期間経過後のやり直しであり、事業者に「社内、タレント共に全ての確認が完了」した旨の通知は受領日から277日経過した2023年8月25日になされた)、(iii)2023年2月8日に給付を受領、同年3月22日までの間に無償で3回(うち2回は検査期間経過後のやり直しであり、事業者に「納品」が完了した旨の通知は受領日から230日経過した2023年9月26日になされた)。

 上記(イ)の支払遅延については2022年7月~2024年2月の間、このような無償のやり直しなどにより「下請事業者の給付を受領しているにもかかわらず、あらかじめ定められた支払期日までに下請代金を支払っていなかった」とし、事業者29名に対する「当該支払遅延による遅延利息の額」として総額115万2,642円を認定。

 上記3つの「事例」においては支払遅延に係る違反事実の態様とし、(i)の事例では「カバーは、その後も経理処理を失念するなどし、……下請代金が支払われたのは、給付の受領日……から619日経過した令和5年12月27日であった」ことを、同様に(ii)「下請代金が支払われたのは、給付の受領日……から312日経過した令和5年9月28日であった」ことを、(iii)「カバーは、令和5年4月頃には、本発注により作成された動画用2Dモデルを用いて動画配信を行っていたが、本発注の下請代金が支払われたのは、給付の受領日……から266日経過した同年10月31日であった」ことを、それぞれ明記した。また、カバーにおいて本年9月17日までに「当該支払遅延による遅延利息の額」を支払ったものと認定している。

 なお、公取委は本事案の公表において「下請法における支払期日と遅延利息」に係る説明を掲載し、(α)下請法では最長でも受領日を起算日として60日目までに支払期日を定めて下請代金を支払う必要がある旨とともに(β)受領日を起算日として61日目からは下請法4条の2に基づく遅延利息(年率14.6%)が発生することについて注意を促した。

 公取委による今般の「勧告」では、その筆頭として⑴「下請事業者の給付を受領した後に、無償で給付をやり直させたことによる費用に相当する額」について公取委の確認を得たうえで下請事業者にすみやかに支払うよう要請。⑵不当なやり直しの再発防止を巡っては、①取締役会決議による確認、②自社の発注担当者に対して下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講ずることとともに、③情報成果物の作成を委託する下請事業者に対して2022年4月1日~2024年10月25日(今般の勧告・指導日)の間に「当該事業者の給付を受領した後にやり直しをさせた下請取引……について、下請法第4条第2項第4号の観点から問題が生じていなかったのかを調査し、問題が認められた場合には、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を講ずること」についても求めるものとなった。

 一方の「指導」としては、⑴支払遅延の改善措置、⑵再発防止とともに⑶上記「調査」を巡り「下請法第4条第1項第2号の問題が認められた場合には、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を講ずること」を掲げる。

 カバーにおいては本件公表と同日となる10月25日、「公正取引委員会からの下請代金支払遅延等防止法に基づく勧告について」と題する文書を公表し、そのなかで取引先・関係者への謝罪を表明するとともに、本事案に関して説明。「Live2Dモデルや3Dモデル等のクリエイティブをご依頼するにあたり、仕様書や指示書等で正しい言語化による発注が行われなかった結果」とし、修正の依頼回数が多くなったこと、完成までの期間が長期に渡ったことにつき、取引先に「ご負担ご迷惑をおかけしました」としている。「一部の取引について漏れなく速やかにお支払いをすべきところ、支払処理が漏れていたこと」についても「多大なるご迷惑をおかけしてしまいました」とした。その背景として「事業が急拡大し取引件数が増大したのに対し、お取引先様の方々とのやり取りに抜け漏れや遅延が生じてしまっていたこと、及び社内体制の構築や社内研修が不十分であったこと」を挙げている。

 併せて、いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化等法(令和5年法律第25号)の11月1日施行についても言及したうえで「当社としてはクリエイターの皆様や各お取引先様との取引を円滑かつ安心して進められるよう体制を整えていく必要があると考えて」いると表明。各法令の遵守、社内体制の強化とモニタリングなどの整備によりコンプライアンスの強化と再発防止に向けて改善を図る方針であるとした。

 本事案の公表により、公取委による下請法に基づく勧告はSANEIに対する事案(SH5123 公取委、SANEIの「仕入割引」「金型無償保管等」を巡り下請法違反で勧告 ――「型」無償保管では6件目、下請代金減額行為と合わせた対象事業者は延べ60名に(2024/10/02)既報)、ナイスに対する事案(公取委・10月23日公表)に続き、2024年度において8件目となっている。


公取委、カバー株式会社に対する勧告等について
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/

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