他人のバンドスコアの無断利用につき不法行為の成立を肯定した東京高裁判決
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士・弁理士 後 藤 未 来
弁護士 山 本 浩 子
1 はじめに
東京高裁は、他人が制作・販売したバンドスコア(バンドミュージックについて、ボーカル、ギター、キーボードおよびドラム等のパートに係る演奏情報がすべて記載されている楽譜、以下同じ。)を無断で利用してインターネット上で無料公開する行為について、不法行為の成立を肯定し、損害賠償を命じる判決を下した(東京高判令6.6.19・令和3年(ネ)第4643号)。
本件で問題となったバンドスコアは、著作権法で保護される著作物には該当せず、その無断利用行為に対して著作権侵害を問うことはできない。そのような場合に関し、いわゆる北朝鮮映画事件の最高裁判決(最判平23.12.8民集65巻9号3275頁。以下「平成23年最判」という。)は、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められない限り、不法行為を構成しない旨を判示した。
本件の第1審(東京地裁)は、被告による模倣自体を否定し、原告の請求を棄却した。これに対し、控訴審(東京高裁)は、被告が公開したバンドスコアと原告のバンドスコアの表記の一致率が高いこと等の具体的な事情に照らし、原告が主張した579曲分のバンドスコアについて模倣を認定し、不法行為の成立を肯定した(なお、控訴審判決に対しては、上告・上告受理申立てがなされているようである。)。
上記の平成23年最判を含め、関連する従前の主な裁判例としては下表のものがある。
本稿では、本事件の概要と判決のポイントを紹介する。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(やまもと・ひろこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2022年京都大学法学部卒業。2023年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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