大手法律事務所の名古屋オフィス代表弁護士インタビュー
第3回 弁護士法人西村あさひ法律事務所
弁護士法人西村あさひ法律事務所
弁護士 藤 井 宏 樹
(聞き手) 弁護士 西 田 章
第102代内閣総理大臣に就任した石破茂氏は、2014年9月に初代の地方創生担当大臣を務めた人物でもあります。それから、10年が経過し、2024年10月4日、所信表明演説では「『地方こそ成長の主役』です。地方創生をめぐる、これまでの成果と反省を生かし、地方創生2.0として再起動させます」と述べています。これを受けて、2024年10月11日に閣議決定された「新しい地方経済・生活環境創生本部の設置について」でも「『地方こそ成長の主役』との発想に基づき、地方がそれぞれの特性に応じた発展を遂げることができるよう、日本経済成長の起爆剤として大規模な地域創生策を講ずる」という目的が掲げられています。 弁護士業界においても、これまで東京圏での企業法務のプラクティスをリードしてきた大手法律事務所が地方にもその経験知を共有していこうという動きが見られます。この動きは、東京圏の法律事務所が行なっているプラクティスを一方的に地方に押し付けるようなものではなく、地域の法律事務所と連携した上で、地域企業が抱える法律問題の特性に応じて、お互いの有するノウハウとネットワークを総動員することによって、地域の企業にとって最適なリーガルサービスの提供を目指すものと解することができます。 そこで、本シリーズでは、大手法律事務所の地方オフィスの代表弁護士に対するインタビューを通じて、その活動の実態に迫ってみたいと思います。その企画の始めとして、まず、4つの大手法律事務所の名古屋オフィスを取材させていただきました。愛知県を選んだ理由は、東京圏との比較において、経済規模の大きさの割に弁護士数が特に少ないように思われたからです。 (注) 内閣府が発表している県民経済計算によれば、愛知県の県内総生産(令和3年度)は、約40兆円であり、東京都(約113兆円)の約35%の経済規模を有しています。それにも関わらず、愛知県弁護士会の登録弁護士数は、約2,100名であり、東京三会(合計で約22,000人)の10%未満に留まっています。 第3回は、弁護士法人西村あさひ法律事務所へのインタビューです。西村あさひは、国内最大手のローファームですが(所属弁護士数(2025年1月現在)は812名)、2012年8月1日に、弁護士法人を設立して、名古屋事務所と大阪事務所の業務を開始、その後、2013年7月に福岡事務所、2023年4月に札幌事務所を設立しています。同事務所のHPによれば、名古屋事務所には「企業法務全般に関する案件の経験豊富な弁護士が所属し、幅広い分野において、お客様のニーズに応じた柔軟なリーガルサービスを提供しております。また、それらの所属弁護士が、東海地域のお客様の窓口となり、東京事務所、海外事務所その他の各拠点における高い専門性を持つメンバーと緊密な連携をとることにより、各拠点と一体となって、ワンストップのリーガルサービスを提供しております」との紹介がなされています。 |
インタビュー先:弁護士法人西村あさひ法律事務所名古屋事務所 法人パートナー弁護士 藤井宏樹先生
日 時:2024年10月28日
場 所:弁護士法人西村あさひ法律事務所名古屋事務所会議室
聞き手:西田章
第1部 オフィスの概要

西村あさひは、2012年8月に、弁護士法人西村あさひ法律事務所名古屋事務所を開設されました。開設の目的をお伺いしたいのですが、藤井先生は、名古屋事務所開設に関与されていたのでしょうか。

いえ、私は、2014年に名古屋事務所に移籍して参りまして、2020年1月から、開設者の伊藤剛志弁護士から引き継いで、名古屋事務所の責任者を務めさせてもらっています。
当時から、既に名古屋を中心とする東海地域の企業の皆様もグローバルにビジネスを展開されており、海外案件のニーズも多くありました。また、国内案件でも、会社法、金融商品取引法などをはじめ、法制度が複雑化し、危機管理案件など迅速かつ多くのプロフェッショナルの関与が必要とされる案件も増えていました。それらの案件について、近くにいる弁護士が窓口となってお客様に寄り添う形で、そのニーズを把握し、それにマッチしたリーガルサービスを提供することが必要であるという考えのもと、名古屋事務所は開設されました。

西村あさひの名古屋事務所では、セミナーも熱心に開催されていますね。

はい、開設当初より、東海地域の企業の皆さまに最新のリーガル情報をアップデートしていただく機会を提供することも名古屋事務所の使命のひとつだと考え、できる限り名古屋実地開催にてセミナーを実施しています。

セミナーを名古屋で物理的に開催されているのですね。東京事務所の先生方も講師として参加されるのでしょうか。

コロナ禍のために実地開催をできない時期もありましたが、2024年からは、コロナ禍前と同様に「リーガルフォーラム」という名称で、名古屋事務所でも、実地開催のセミナーを再開しています。
東海地域の企業の皆さまにとって、いきなり面識のない東京の弁護士に相談するのは、心理的ハードルもあるかと思いますので、東京事務所にいる各分野のプロフェッショナルの弁護士に名古屋まで来てもらい、できる限りの多くの東海地域の方々に、そのような弁護士と面識をもっていただける機会を提供しています。

現在、名古屋事務所の人員はどの程度の規模なのでしょうか。

現在は、弁護士6名が所属しています。法人社員が2名で、アソシエイトが4名おります。

今後の拡大計画を教えていただけないでしょうか。

基本的には「クライアントの皆さまのニーズに即して対応する」ということを最優先に考えているため、具体的な計画を策定して、それに基づいて拡大していく、というわけではありません。

東海地域のクライアントからの依頼に対して、常に名古屋事務所のメンバーだけで対応されるわけではないのですね。

そうです。クライアントも、必ずしも名古屋事務所の弁護士のみで業務を完結させることを望んでいるわけではありません。それよりも、日頃からクライアントとコミュニケーションをとっている弁護士が窓口になり、そのクライアントや案件にとって、他の拠点の弁護士も含めた最適なチームを構成することが重要と考えています。

また、法律事務所は、会社における雇用契約と違って、弁護士に対して特定の拠点への異動を命じることも出来ないですよね。

はい、現在の名古屋事務所のメンバーは、全員、本人の希望でここに異動して来ており、自分のキャリアも考えた上で、名古屋事務所を選んで来てくれています。
実際、ここ5年間くらいで、名古屋事務所での勤務を希望し、異動してきてくれる弁護士は増えていますので、私としても、名古屋事務所のスペースが許す限りは、「名古屋事務所で働きたい」という弁護士の希望を尊重したいと思っています。
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