SH5370 経産省、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(第7回) 糟谷昇平(2025/03/25)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

経産省、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(第7回)

岩田合同法律事務所

弁護士 糟 谷 昇 平

 

1 はじめに

 経済産業省は、2025年3月13日、「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」(以下「CG研究会」という。)の第7回研究会(以下「第7回研究会」という。)を開催した。

 第7回研究会では以下のテーマについて議論がなされた(下表参照)。

  1. 「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)(下表③)のうち、取締役会事務局の体制・仕組みについて
  2. 「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則について(下表②)
  3. CG研究会の全体概要について(下表①)
  4. CG研究会における指摘事項について(下表⑤)

 本稿では、上記a.及びb.に関する第7回研究会での議論の概要を紹介する[1]

 

出典:第7回研究会の事務局説明資料14頁

 

2 取締役会事務局の体制・仕組みについて

⑴ 主な検討ポイント・取組例

 「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)では、各企業が自社におけるコーポレートガバナンス(以下「CG」という。)の体制・仕組みについて議論する際に「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる内容を「主な検討ポイント」として示し、CG体制・仕組みの一例を「取組例」として示すことを予定している。

 CG体制・仕組みのうち、取締役会事務局については、CG実務を統括し、CGの深化に向けた取組みや社外取締役のサポート等を通じて、CGや取締役会の実効性を担保・向上させる役割を担うことが期待されている。そのため、取締役会事務局は、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)案においても、取締役会、指名委員会、報酬委員会及びCEOら経営陣と並び、「稼ぐ力」の観点から特に重要となるCG体制・仕組みの1つとして位置付けられている。そこで、第7回研究会では、取締役会事務局に係る上記「主な検討ポイント」及び「取組例」の案として、以下の内容についてそれぞれ議論がなされている。

 

【主な検討ポイント(案)】

出典:第7回研究会の事務局説明資料19頁

 

【取組例(案)】

出典:第7回研究会の事務局説明資料20頁

 

⑵ 取締役会事務局に関する意見等

 第7回研究会では、上記の取締役会事務局に係る「主な検討ポイント」及び「取組例」の参考資料として、取締役会事務局に関する意見や取締役会事務局の実態に関する調査結果等が紹介されている[2]。例えば、

  1. ① 事務局の機能や役割の重要性が社内で共有されることが必要であるとの意見があったこと
  2. ② 事務局の業務量が増え、難易度も上がっているとする企業が8割以上あったこと
  3. ③ 社外取締役へのサポート体制・環境の構築状況について、取締役会資料の早期提供(概ね3日前までの提供)を行っている企業が8割、取締役会の事前説明、現地視察・ヒアリング、事業内容や経営戦略等の理解のための支援等を行っている企業が約7割であったこと
  4. ④ 事務局スタッフの意図的な育成の必要性を感じている企業が8割以上であるのに対し、事務局スタッフの教育・育成の仕組みがない企業が7割以上であったこと

等の意見・調査結果が紹介されている。

 

 なお、事務局体制・仕組みの実例として、富士通株式会社の取組みも紹介されている[3]。具体的には、同社では、以下の取組みを行っていること等が紹介されている。

  • ゼネラルカウンセル配下のコーポレートガバナンス法務部に事務局を設置していること
  • 担当役員、本部長、担当幹部社員及び担当者5名で事務局を運営していること
  • 一連の意思決定プロセス(株主総会・取締役会・経営会議・権限委譲規程)は同じ部門に事務局機能を配置し、一気通貫で所掌していること
  • 事務局はCEO室、経理部門、広報IR部門、人事部門、全社リスク管理部門等の多様な部門と連携し、社内のガバナンス・オーガナイザーの役割を果たしていること

 

3 「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則について

 「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組みとして、①CEOら経営陣による業務執行を様々な側面から支える強靭な取締役会を構築すること、②自社の競争優位を生み出す価値創造ストーリーを立案・実現できる強い経営チームを組成し、CEOら経営陣が迅速・果断に意思決定できる環境を整備すること、③CGの実効性・持続性を担保する評価・検証の仕組みを構築することが必要と考えられている。そして、このような取締役会とCEOら経営陣がそれぞれの役割に応じて機能を発揮する実効的なCGの下、株主・投資家との対話も活用し、事業ポートフォリオの最適化や成長投資を実行していくことが、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営のためには必要不可欠であると考えられている。

 第7回研究会では、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営を実現するために取締役会が遵守すべき原則として、「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則の案を示し、その内容の妥当性や追加記載事項等について議論がなされている(下表参照)。当該案では、取締役会は当該5原則に基づき行動し、それが実効的に機能するよう、CEOら経営陣もしかるべき行動をとることが望ましいとされており、≪経営陣がとるべき行動≫も併せて示されている。

 

【「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(仮称)(案)】

原則1

中長期的な資本効率性を考慮したうえで、社会課題やステークホルダーについても考慮しつつ、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築する。

≪経営陣がとるべき行動≫

価値創造ストーリーの策定に際し、全体最適の視点を重視するとともに、P/L視点だけでなく、B/S視点での議論を行う。

原則2

取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、成長志向の経営を行えているかを確認する。

≪経営陣がとるべき行動≫

中長期目線での事業ポートフォリオの最適化と成長投資を行う(短期目線での株主還元となっていないか慎重に判断)。

原則3

経営陣が事業ポートフォリオ最適化・成長投資に向けたリスクテイクを行えているかを確認する。

≪経営陣がとるべき行動≫

CEOを支える強い経営チームの組成も含め、リスクテイクのための環境整備を行う。

原則4

経営陣の意思決定プロセス・体制は「稼ぐ力」に資するものとなっているかを確認する。

≪経営陣がとるべき行動≫

経営環境の変化も踏まえ、社内論理に陥ることなく、多角的な視点での戦略の議論と業務執行を行う。

原則5

経営トップとしてふさわしいCEOを選ぶとともに、毎年、原則1~4も踏まえたCEOの評価を行い、再任・不再任の判断を行う。

≪経営陣がとるべき行動≫

取締役会等とCEOの後継者計画を策定するとともに、取締役会にコミットした経営戦略を実行し、取締役会に対して進捗等を適切に報告する。

 

4 おわりに

 近年、コーポレートガバナンス・コードの制定・改訂等の一連の取組みにより、日本企業のCGの取組みは着実に進み、「稼ぐ力」を強化し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現している企業もある。他方で、コーポレートガバナンス・コードの遵守が目的化するなど、事実上、CGの取組みがコンプライアンス業務の一環として行われ、形式的な体制の整備にとどまっている企業も多いとの指摘もある。

 CG研究会は、日本企業が、本来の目的に立ち返り、実効的なCGの下で「稼ぐ力」を強化していくための取組みを支援するため、上述の「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)や「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則等の取りまとめを公表する予定である。各企業においては、同研究会の議論を引き続き注視し、今後公表される取りまとめを踏まえ自社のCG体制・仕組みを見直すことが望ましいと考えられる。

以 上


[1] 第7回研究会での議論の詳細については、事務局説明資料も参照されたい。

 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/007_03_00.pdf

[2] 事務局説明資料(参考資料集)

 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/007_04_00.pdf

[3] 富士通株式会社 水口様説明資料24頁

 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/007_09_00.pdf


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(かすや・しょうへい)

岩田合同法律事務所弁護士。2017年一橋大学法学部卒業、2019年早稲田大学大学院法務研究科修了。2020年弁護士登録。会社法、金融商品取引法、M&A案件、事業再生・倒産案件、訴訟案件等を中心に、企業法務全般に関する法的助言を幅広く取り扱う。

 

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>
〒100-6315 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング15階 電話 03-3214-6205(代表)


経産省、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(第7回)資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/007.html
○資料6 「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(仮称)(案)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/007_06_00.pdf
○資料7 「稼ぐ力」の強化に向けたCGガイダンス(仮称)(案)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/007_07_00.pdf

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