フィリピン:新型コロナウイルス禍における会社法関連手続対応(2)
取締役会・株主総会のリモート開催
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
フィリピンにおいても、今般のコミュニティ隔離措置や入国制限により、取締役会・株主総会の開催に苦慮した会社は少なくないものと思われる。コミュニティ隔離措置や入国制限は今後緩和されていくことが予想されるものの、今般の新型コロナウイルス禍を受けた社会における意識の変化等も踏まえると、今後も、取締役会・株主総会を含む種々の会議を、出席者が一堂に会する方法以外の方法で行うことのニーズは継続しうる。
フィリピン会社法上、取締役会、株主総会のいずれについても書面決議の概念がなく、出席すべき者が一堂に会することができない、あるいは適切でない状況にあっては、株主総会における代理出席を除くと、電話会議やビデオ会議等の方式での開催(リモート開催)を検討することになる。フィリピン会社法上、取締役会・株主総会ともにリモート開催は可能とされているが、株主総会については、リモート開催について(i)付属定款に定めがあること、又は取締役会における過半数の承認があることが必要で、(ii)さらにSECがリモート開催に関する細則を定めることになっている(会社法23条、49条、50条、57条)。コミュニティ隔離措置が開始する直前のタイミングである3月12日に、かかるSECの細則に相当するガイドライン(SEC回状2020年6号)が制定されているところ、簡潔にリモート開催に関連する部分の概要を紹介する。以下のとおり、当該回状の内容には、株主総会のみならず取締役会のリモート開催も含まれている。
取締役会のリモート開催に関するガイドライン
- • 取締役は、ビデオ会議、電話会議等のリモート方式により、取締役会に出席することができる(注:個々の取締役の側から、リモート方式による出席を求めることができる。)。取締役がリモート方式による出席を希望する場合、議長及び秘書役に対し事前にその旨を通知する。招集通知には、取締役はリモート方式により出席できる旨を記載する。
- • 会議の冒頭に、各出席者は、氏名、役職、出席場所、他の出席者の音声・影像をクリアに認識できる旨、招集通知を受領している旨、及び使用デバイス(スマートフォン、タブレット、ラップトップ、デスクトップ、テレビ等)を明らかにする。
- • リモート方式による出席者の投票は、議長及び秘書役に対する電子メール、メッセンジャー等によることも可能。
- • 秘書役は、(i)リモート方式による取締役会開催に必要な環境(十分なインターネット環境等)を確保すること、(ii)会議においては出席者が互いに音声・影像をクリアに認識でき、通信が中断しないようにすること、(iii)会議内容について所要の記録を作成・保存すること、(iv)リモート方式により出席した取締役に対し、実務上可能なタイミングで議事録に署名するよう要請すること、等について責任を負う。
株主総会のリモート開催に関するガイドライン
- • 株主は、付属定款における規定、又は個々の株主総会について取締役会による過半数の承認がある場合、ビデオ会議、電話会議等のリモート方式により、株主総会に出席することができる。株主がリモート方式による出席を希望する場合、議長及び秘書役に対し事前にその旨を通知する。リモート方式による開催がなされる場合には、招集通知にその旨その他関連する事項を記載する。
- • 会社は、株主総会のリモート開催に関する内部手続を定めなければならない(注:必ずしも付属定款で定める必要はなく、他の内部規則の形式でもよい。)。かかる内部手続において定め得る事項には、(i)株主及び議決権を有する株主の確認方法、(ii)株主が議事に参加することを確保するための方策、(iii)株主による投票を可能とするための方策、(iv)議事の記録手続、等が含まれる。
- • 秘書役は、会議内容に関する所要の記録を保存すること等について責任を負う。
なお、株主総会のリモート開催は、2019年2月に全面的に改正された現行会社法で初めて認められたものであるところ(それまでは、取締役会のリモート開催は可、株主総会のそれは不可であった。)、SECの細則が制定された後に、その内容を踏まえて、株主総会のリモート開催を可能とするための付属定款の変更を行うことを検討していた(それまでは「様子見」としていた)会社は多いと思われる。上記のとおりSECの細則が制定されたことを受けて、このタイミングで付属定款に所要の変更を行うことも、検討に値する。