SH3308 ベトナム:新労働法による変更点⑦ 契約終了時の通知と退職金の支払い 井上皓子(2020/09/15)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点⑦
契約終了時の通知と退職金の支払

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 新しい労働法(45/2019/QH14)(以下「新法」)による現行法からの主要な変更点や、企業が労務管理上気を付けるべきポイントの第7回目として、労働契約終了時の使用者の責任に関し、①労働契約終了の通知、②退職手当と離職手当の支払について解説します。

 なお、弊職らが作成した新法の日本語仮訳が、JETROのウェブサイトで公開されていますので、ご参照下さい。

 

1 労働契約終了の通知

⑴ 使用者による一方的解除の場合

 使用者が一方的に労働契約を解除する場合、労働契約を終了する前に、労働契約の終了について労働者に通知する必要があります。

 新法では、この事前通知期間について、以下のように定めています(新法第36条2項)。

  新法第36条2項 現行法との比較
無期労働契約 少なくとも45日前まで 変更なし
12か月以上36か月未満の有期労働契約 少なくとも30日前 一見異なるように見えるが、現行法では、有期契約と季節的業務等とで分けられていたところ、新法では、有期労働契約の下限の規定がなくなったためその関係で規定ぶりが異なったもので、内容としては概ね現行法と変わらないものと理解して良い
12か月未満の有期労働契約 少なくとも3営業日前まで
労働者が疾病又は災害により労働能力回復できない場合 少なくとも3営業日前まで

新法で新たに導入  

特別な業種等 政府が別途定める
事前通知不要の場合 ①労働者が契約の一時停止期間の満了日から15日以内に復職しなかった場合
②労働者が、正当な理由なく5営業日以上連続して無断欠勤した場合

 

 

 

 

 

 このうち、実務上特に注目されるのは、事前通知が不要な場合が明確に規定されたことです。特に、労働者が突如連絡を絶って会社に来なくなってしまったような場合は、事前通知の送付先も不明なことが多いと思われますが、それでも事前通知を必要とすると、法令上の手続きを取ることができず、結果として労働契約を解除することもできないということが起こりえました。法改正により、そのような無断欠勤の場合に事前通知は不要とされたことで、労働契約解除の権利を正当に行使することができることとなりました。

⑵ 有期労働契約の期間満了による契約終了の場合

 現行法では、有期労働契約が期間満了による契約終了の場合、使用者が労働者に対し、契約の期限が満了する15日前までに契約の終了について通知する必要があると規定されています(現行法第47条1項)。新法では、引き続き契約の終了を通知する必要がありますが、契約期間満了時でよいとされ(新法第45条)、契約期間満了前に事前に通知する必要がなくなりました。

⑶ その他の場合

 現行法では特に規定がありませんが、新法では、使用者は、労働者が懲役刑又は死刑を科される場合等法令上定める特別な場合を除き、原則として、労働契約の終了に際し、労働者に対し労働契約の終了について書面により通知しなければならないと規定されています。これは、例えば使用者と労働者とが合意により契約を終了させる場合にも当てはまるものと理解されます。この場合も、上記(2)と同様、契約終了時に契約終了の通知を書面で行えばよく、事前に通知する必要はありません。

 なお、これに関連し、新法では、労働者が要求する場合、労働者の勤務過程に関する書類の写しを提供する義務が新たに課されました。この場合、書類の写しの作成、送付にかかる費用は使用者が負担することになります(新法第48条3項b号)。

 

2 退職手当と失業手当の支払い

 使用者は、原則として、労働契約終了の際に、それまで12か月以上常時勤務していた労働者に対し、退職の事由に応じて退職手当(通常の退職の場合)又は失業手当(組織変更、吸収合併等特別な事由に基づく退職の場合。離職手当とも呼ばれます。)を支払う必要があります(現行法第48条、第49条、新法第46条、第47条)。この点は、新法でも変更はありません。ただし、新法では、次の場合に退職手当の支払は不要であることが明記されました。

  1. ① 労働者が正当な理由なく5営業日以上連続して無断欠勤したことにより労働契約が終了される場合
  2. ② 労働者が保険に関する法令の定めるところにより年金を受給する条件を満たした場合

 このうち①については、現行法においても、労働者が正当な理由なく、最初に無断欠勤した日から数えて1か月に合計5日又は1年に合計20日無断欠勤した場合には懲戒解雇事由とされており、懲戒解雇の手続きを取った場合には、退職手当の支給は不要とされていました。新法では、懲戒解雇事由としては変更がないものの、懲戒手続きを経なくても労働契約が解除できる場合として①を規定し、その場合にも退職手当の支払が不要とされています。懲戒手続きを行うには原則として当該労働者の出席が必要であるため、無断欠勤を続けたまま行方が知れない労働者には、懲戒手続きを取ることができず、結果として退職手当の支給が必要となる可能性がありましたが、新法ではこの点を一方的解除事由かつ退職手当が不要な場合と整理することで解決したものと理解されます。

 また、②については年金受給年齢に達したことについての法令上の位置付けが異なりますが(現行法では労働契約の終了事由とされていましたが、新法では双方による労働契約の一方的解除事由とされています)、結果として退職手当の支給が不要であるという点については変更がありません。

 退職手当及び失業手当については、社会保険に加入している期間分は、社会保険から給付されることになるため、会社から支給するケースは多くはないかもしれません。

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