インドネシア:インドネシアにおけるハラール認証制度(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 村 洸 介
世界最大のイスラム教徒を有するインドネシアでは、食品、化粧品、ファッション、観光の分野をはじめ、ハラール産業の成長が期待されている。ハラールとは、シャリア(イスラム法)において「合法、許された」を意味し、その対義語であるハラームは「禁じられた」を意味する。一般的な例を挙げると、水、果物、野菜、穀物、魚などはハラールであり、豚やお酒などはハラームにあたると考えられているが、ハラールであるかどうかは、イスラム教の宗派や法学派によって見解が異なることもある。そのため、イスラム有識者による判定を受け入れて実施するかどうかはイスラム教徒それぞれに委ねられるものである。
本稿では、インドネシアにおける、対象製品がハラールであることを保証するハラール認証制度を紹介する。
1 インドネシアのハラール認証制度(以下「本制度」)の概要
本制度は、ハラール製品保証法(2014年法33号)及びその施行規則(政令2021年39号)に定められている。
「ハラール製品保証」とは、製品がハラールであることに関する法的確実性と定義され、①ハラール製品について利便性、安全、安心及び供給の確実性を国民に対して提供すること、及び、②ハラール製品を製造販売する事業者にとっての付加価値を高めることを目的としている。
以前は、ハラール認証の発行はインドネシア・ウラマー評議会(MUI。イスラム学者、指導者等から構成される。)の権限であったが、本制度においてハラール製品保証はインドネシア政府の責任とされ、ハラール認証の発行権限は、宗教大臣の下部組織として設置されたハラール製品保証実施機関(BPJPH)に移管された。
⑴ ハラール認証の対象
本制度は、インドネシア領域内に搬入、流通、取引される「製品」はハラール認証を取得しなければならないと定め、ハラール認証は、ハラールである原材料から製造され、「ハラール製品プロセス」を遵守した「製品」に付与されるとする。
ハラール認証の対象となる「製品」には、食品、飲料、医薬品、化粧品、化学品(飲食料品、医薬品、化粧品に関するものに限られる。)、衣料品(動物関連成分を含むものに限られる。)等の物品に加えて、加工、保管、包装、流通、販売等のサービスも幅広く含まれている。そこで、インドネシアで飲食業やファッション事業を営む事業者のみならず、物流業者や倉庫業者等も今後の事業展開によってはハラール認証を取得することも検討に資すると言えるであろう。
なお、本制度については、ハラール認証の「義務化」と説明されることも多いが、インドネシアでは、非ハラール品の製造、流通、販売等も認められており、本制度によってこれらが禁止されることを意味するものではない。本制度は、消費者等がハラールと非ハラールを区別して「製品」を購入、利用等できるように、ハラールとして「製品」の販売等を行う事業者に対して、ハラール認証を取得して表示することを求めるものであると考えられる。
(2)につづく
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(なかむら・こうすけ)
2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。
2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。ジャカルタ・デスク勤務(2019年10月~2020年)を経て、現在はシンガポール・オフィスに所属し、インドネシアをはじめ東南アジアへの日本企業の事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。
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