シンガポール:ホームシェア(民泊)規制の改正に向けた動き
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 松 本 岳 人
2018年4月17日、シンガポールの都市再開発庁(Urban Redevelopment Authority。以下「URA」という。)は、民間住宅をShort Term Accommodation(以下「短期滞在施設」という。)として提供するための新しい規制枠組みについて公衆から意見を求めるパブリックコンサルテーションを開始した。かかる新たな規制枠組みが実現されると、一般の民家を宿泊施設として提供するホームシェア、民泊などと呼ばれる事業がシンガポールでも一部解禁されることとなる。
日本では住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)が2018年6月15日に全面的に施行され、これまで国家戦略特別区域における外国人滞在施設経営事業として又は旅館業の一形態として限定的に行われていた民泊事業の更なる広がりが期待されている。シンガポールでは、現在は原則として民間住宅の賃貸借の最低期間が3か月とされているため、事実上、ホームシェアは制限された状態にある。昨年、かかる規制の違反に対する罰則を強化する改正がされた一方で、賃貸借の最低期間を従来の6か月から3か月へと短縮する改正もなされるなど、頻繁に規制が変更される政治的な関心の高い分野であり、今後の規制の方向性が注目されていたところである。そこで、本稿ではURAから公表されたシンガポールでの新たなホームシェア規制の枠組み案について紹介することとする。規制項目は多岐にわたるが、主な規制は次に掲げるとおりである。
- ⑴ 対象不動産
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短期滞在施設の対象となる不動産は、民間の不動産であり、シンガポール人の80%以上の人が暮らしている住宅開発庁(Housing Development Board:HDB)が建設した公団住宅は対象外である。
- ⑵ 所有者の同意
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短期滞在施設としての提供は原則として所有者の同意を得る必要がある。
コンドミニアムなどの区分所有建物については当該建物全体の権利者の80%以上の同意を得る必要がある。同意の有効期間は2年間であり、更新の必要がある。
- ⑶ 都市計画及び短期滞在が認められる要件
- 短期滞在施設と認められるためには、URAへの許可が必要となる。商業エリアやビジネスエリアなどでは、比較的緩やかな条件で認められる見込みであるが、周辺住民の生活に影響の大きい住宅街では認められる可能性は低い。
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短期滞在施設として提供できる期間は年間90日を上限とし、入居人数は一度に6名を上限とする。
- ⑷ 火災安全基準
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短期滞在施設には、家庭用火災報知器や消火器の設置が義務づけられるほか、一般の住宅よりも厳しい火災安全基準が適用される。
- ⑸ 管理組合の役割
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区分所有建物については、管理組合が80%以上の権利者の同意を得ていることの把握や短期滞在施設であることによる追加の設備投資の判断を行う役割などを担う。
- ⑹ プラットフォーム運営者規制
- 短期滞在施設として提供される施設を広告し、ホストとゲストを仲介するプラットフォーム運営者はライセンス制となり、プラットフォーム運営者は、年間上限の90日の宿泊数の管理やホストからの税金徴収協力などの責任を負う。
シンガポールでのホームシェア規制案の作成に当たって、日本の住宅宿泊事業法も参考に制度設計がされているようであるが、シンガポールの今回の枠組み案では、許容される物件が限定されており、かつ、日本では年間上限宿泊日数が180日、区分所有建物の管理規約の改正の要件が議決権の75%以上の区分所有者の賛成であることなどと比較しても、日本よりも厳格な規制案となっている。民泊は、観光客の宿泊施設を増やすなどとして歓迎する動きもある一方で、騒音や防犯上の懸念や、ホテルとの競争条件の公平性など複雑な利害関係の調整も必要となり、難しい問題も抱えている。日本でも地方公共団体によって民泊の規制方針は様々であり、地域の実情に応じた規制は必要であると考えられるが、今後のシンガポールでのホームシェア規制のあり方にも注目することとしたい。