タイ:居住用不動産賃貸借契約に関する新規制
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
2018年5月1日に、居住用不動産の賃貸借契約の内容を規制する規則が制定、施行された(Notification of the Contract Committee Re: The Stipulation of Residential Property Lease as a Contract Controlled Business B.E. 2561 (2018))。
当該規則は、消費者保護法(Consumer Protection Act B.E. 2522(1979))に基づき制定されたものであり、「個人に対して、5戸以上の物件(同一の建物内の物件であるか否かを問わない)を居住用に有償で賃貸する事業」(居住用物件賃貸事業)が適用対象とされている。タイには日本の借地借家法に相当するような賃借人保護のための特別な法規制は存在しないが、本規則は、居住用不動産の賃貸借契約について賃借人保護の観点から規制をかけるものと言える。
適用対象は、5月1日以降に締結される居住用物件賃貸事業にかかる賃貸借契約であり、当局が先日行った本規則に関する説明会での解説によれば、4月30日以前に締結された契約には適用されない一方で、かかる契約を5月1日以降に更新する場合には適用対象となる。また、個人が当事者となる賃貸借契約のみが適用対象であるため、法人が従業員の居住用のために家主と締結する賃貸借契約(法人契約)は適用対象外ということになると思われる。
具体的な規制内容としては、まず、賃貸借契約が充たすべき形式規制として、タイ語で、明瞭かつ判読可能なものでなければならず、2ミリ以上の文字で、1インチのスペース内の最大文字数は11文字でなければならない旨が定められている。
さらに、賃貸借契約の内容に関する規制として、記載すべき事項と記載してはならない事項が定められている。特に注目すべき内容は以下の通りである。
- • 賃貸借契約には、電気、水道等のユティリティ料金を記載しなければならず、当局が定めたレートを超える電気代や水道代を徴収することを定めてはならない。
- • サービスフィーやその他の料金・費用も記載しなければならず、その額は合理的かつ実費でなければならない。
- • 物件及び器具の物理的な状況に関する詳細について、引渡時に賃借人の確認を得た上で契約に添付し、写しを賃借人に対して交付しなければならない。
- • 保証金及び前払賃料はそれぞれ家賃1か月分以下でなければならず、賃貸人が(賃貸人に生じた損害の補償に充てる場合を除き)これらの保証金や前払賃料を没収することを認める条項を定めてはならない。
- • 賃借人が30日前までの通知により解約することができる旨を定めなければならない(なお、タイでは、賃貸借期間を1年とした上で、賃借人側の都合で中途解約する場合には保証金を没収する扱いとすることが比較的多い)。
- • 更新時にフィーや費用を徴収する条項は定めてはならない。
本規則の適用対象となる賃貸借契約が本規則を遵守していない場合、賃貸事業者に対して罰則(1年以下の懲役若しくは10万バーツ以下の罰金又はそれらの併科)が科せられる可能性がある。また、法人が違反者となる場合には、当該違反に関与した取締役も同様の罰則の対象となる。