◇SH0642◇メキシコのエネルギー事業改革に伴う資源上流案件の現況 紺野博靖/大槻由昭(2016/04/25)

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メキシコのエネルギー事業改革に伴う資源上流案件の現況

西 村 あ さ ひ 法 律 事 務 所

弁護士 紺 野 博 靖

弁護士 大 槻 由 昭

 

1.  はじめに

 メキシコの石油天然ガス資源の重要性は、2014年7月25日に開催された日メキシコ首脳会談において、我が国の首相が、「メキシコの石油の増産やシェールガスの開発は世界のエネルギー市場の安定にとっても重要である。日本の技術と資金が今後有効に活用されることを期待している。日本企業の石油・ガス上流開発への参画や、メキシコからのLNG供給の可能性もあり、これらに協力していく。」旨の発言したことや、IEA(国際エネルギー機関)が2016年11月16日に公表するとしているWorld Energy Outlook 2016の特集の一つに、「メキシコのエネルギー見通し(Mexico’s energy outlook)」というタイトルの掲載が予定されていることなどからも伺い知ることができる。

 さらにIEAは、上記特集の紹介文において、「メキシコにおいて承認された包括的エネルギー改革は、同国のエネルギー産業の開発に重大な影響を与えるであろう。この特集は、当該改革が、メキシコの発電分野及び広域経済のみならず、同国の石油天然ガスの上流分野に与える潜在的な影響を評価し、急速なインテグレーションが進む北米のエネルギー市場との関連で、メキシコが取り得る選択肢を考察する予定である。」として、メキシコのエネルギー改革を高く評価している。

 

2.  メキシコのエネルギー事業を巡る直近の法改正について

 IEAの紹介文に記載されている包括的なエネルギー改革の法改正は、以下の3つの段階にて順次実施された。

 まず、メキシコ合衆国憲法第25条、第27条及び第28条の改正と共に、21の経過規定が承認され、次に、これを受けて21の法律が2014年8月12日付官報を通じて公布された。最後に、2014年10月31日に、22の規則が公布され、関連する法改正が完了した。かかる3段階の法律改正を経て、メキシコのエネルギー業界では、全く新しい法的環境が整いつつある。

 

3.  新制度下における開発契約の諸形態について

 上記2.に述べた法律改正によって、従前は国有企業が独占的に実施してきた上流の石油天然ガス開発プロジェクトに対して民間企業が携わることが認められるようになった。その結果、以下のような新しい契約形態が認められている。以下その概要を紹介する。

  1. ① サービス契約 (Service Agreements)
  2.   サービス契約とは、国有企業であるPEMEX社とコントラクターである民間企業との間で締結され、事業主であるPEMEX社の石油天然ガスの開発に必要な役務をコントラクターが提供する契約である。利益分配契約や生産物分与契約とは異なり、民間企業であるコントラクターがプロジェクトの収益には依存しない。役務提供の対価は、現金によって支払われる。
     
  3. ② 利益分配契約 (Share Income Agreements、Profit-Sharing Agreements)
  4.   利益分配契約とは、メキシコ政府と、入札で選ばれたコントラクターとの間で締結される契約である。生産された石油天然ガスは、市場で販売する販売業者に全量が引渡され、その販売益が、メキシコ政府とコントラクターの間で分配される。この契約形態では、コントラクターも、メキシコ政府とともに当該プロジェクトの収益に直接依存することとなる。
     
  5. ③ 生産物分与契約 (Share Production Agreements)
  6.   生産物分与契約も、メキシコ政府と入札で選ばれたコントラクターとの間で締結される契約である。利益分配契約との違いは、生産物である石油天然ガスそのものが、一定割合コントラクターに直接分与されるという点である。
     
  7. ④ ライセンス契約 (License Agreements)
  8.   民間企業が、政府から採掘権のライセンスを受けて、自己のリスクと費用負担において開発を行う契約形態である。石油天然ガスは、地下から採掘されるまでは国がその単独所有者であるが、ライセンス契約の場合には、採掘後には民間企業に所有権が移転される。

4.  最低価値制度について

 最後に、メキシコの上流開発案件において特徴的な「最低価値」制度について概説する。

 最低価値とは、石油天然ガスの探鉱及び採掘を通じて「最低限」メキシコ国家にもたらされるべき価値という意味であり、①開発された石油天然ガスからもたらされる操業による利益のうち国が受け取る対価及び、②最低義務作業計画を超える部分の上乗せ作業量の二つの構成要素から成り立つ。各鉱区毎に、異なる最低価値が設定される。

 最低価値は、メキシコ政府が都度設定する変動値である。入札ガイドラインに定められた数式の適用を経て算出された最低価値に照らして、メキシコ国家にとって最も経済的な入札が選び出され、落札者が決定される。最低価値を下回る提案は採用されない。

 以上のとおり、最低価値の数値は、メキシコの石油・天然ガス開発案件に関する入札制度において極めて重要な役割を果たしている。

 

5.  おわりに

 上記のような一連のメキシコのエネルギー事業の改革は、石油天然ガスの探鉱及び採掘事業等の上流プロジェクトの民間企業への開放に留まらず、中流及び下流のプロジェクトや電力事業を含むエネルギー産業全般の民間セクターへの開放をも意味するものである。メキシコにおいて数十年もの間、国有企業によって閉鎖的・独占的に実施されていたエネルギー事業を開放し、新しい事業環境をもたらすという点で、重要な意義を有する。

以  上


 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

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