◇SH0649◇シンガポール:シンガポールと知的財産法制 長谷川良和(2016/05/06)

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シンガポールと知的財産法制

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 シンガポールは、人・モノ・金・情報のハブとなることを企図し、その一環として知的財産ハブを標榜し、知的財産への投資も奨励している。実際、知的財産インフラや税務上のメリット等も考慮して日系のIT系企業やコンテンツプロバイダー等がシンガポールを拠点に新規事業に取り組む例も間々ある。そこで、本稿では、シンガポールの知的財産インフラという観点から、シンガポールの知的財産法制を鳥瞰し、次いで主要な知的財産権として、特許権、商標権及び著作権の保護制度の概要について簡潔に紹介する。

 

1. 知的財産法制の鳥瞰

 シンガポールでは、制定法により、特許権、商標権、著作権、意匠、地理的表示及び半導体集積回路の回路配置が保護されており、営業秘密等はコモンローにより保護されている。シンガポールは、World Intellectual Property Organisation(WIPO)の加盟国であり、また、パリ条約、ベルヌ条約、TRIPs、特許協力条約、商標の国際登録に関するマドリッド議定書及び植物新品種保護条約等にも加盟している。シンガポールにおける知的財産権に関する事項は、知的財産庁が所管している。

 

2. 特許権

 特許権は、特許法に基づき付与される物又は方法に関する発明に対する権利である。特許の保護対象となる発明の要件は、新規性、進歩性、及び産業上の利用可能性を有していることである。特許権者は特許権の存続期間中、特許権の保護対象となっている発明を実施する排他的権利を有するほか、譲渡やライセンス付与等をすることができる。

⑴ 登録
 シンガポールは、特許協力条約の加盟国であり、この条約により、日本を含む他の加盟国でも、同時に発明について特許の保護を求めることが可能になる。シンガポールにおいて特許の国際出願が奏功した場合、国際出願に含まれる発明について、指定された国によって特許が付与される。
 また、日本の特許庁とシンガポールの知的財産庁は、特許審査ハイウェイと呼ばれる二国間協力のパイロットプログラムを実施しており、各特許庁間で調査及び審査の結果を共有することにより、出願人が特許を迅速かつ効率的に取得できる仕組みが設けられている。

⑵ 存続期間
 特許権の存続期間は、出願の日から20年間である。

⑶ 職務発明
 従業員が行った発明に基づく特許権は、当該従業員及び使用者の間では、以下のいずれかの場合、使用者に帰属する。

  1. ① 発明が当該従業員の通常の職務の過程でなされ、又は通常の職務外であっても当該従業員に対し特に割り当てられた職務の過程でなされ、かついずれの場合においても発明が当該職務遂行の結果であると合理的に期待される状況にある場合
  2. ② 発明が当該従業員の通常の職務の過程でなされ、かつ発明時において、当該従業員の職務の性質及び特別な職責のために、当該従業員が使用者の事業利益を推進する特別な義務を負っている場合

 他方、従業員が行ったそれ以外の発明に基づく特許権は、当該従業員に帰属する。

 

3. 商標権

 商標権は、商標法において規定されている。商標登録をした場合、当該商標を使用する排他的権利が付与され、また商標法に従って商標権侵害の救済を得ることができる。なお、周知性のある商標については、商標登録しなくても限定的な救済方法が認められている。

⑴ 登録
 商標は、出願後、登録拒絶事由及び異議申立がなければ、商標審査手続及び公告を経て登録される。

⑵ 存続期間
 登録商標の存続期間は、登録の日から10年間であり、その後10年間ごとに更新可能である。

 

4. 著作権

 著作権の保護は、著作権法において規定されている。保護の対象となる著作物には、言語・音楽・舞踏・美術著作物、映画、録音、放送及び実演等が含まれる。シンガポールはベルヌ条約の加盟国であるため、日本を含む加盟国の著作物の著作権はシンガポールでも保護される。

⑴ 登録
 著作物の著作権は、著作物を創作した時点で自動的に発生する。日本と同様、シンガポールにおいても、登録は著作権の成立要件ではない。なお、シンガポールには著作権の登録制度は存在しない。

⑵ 存続期間
 著作権の存続期間は、著作物の種類・内容等により異なる。例えば、言語・音楽・舞踏・美術著作物は、著作者の生存中に公表された場合、著作者の生存期間中と死後70年間にわたって保護される。また、録音・映画については当初の出版年の経過後70年間、音声放送及び有線番組は放送年の経過後50年間それぞれ保護される。

 

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