◇SH2040◇インドネシア:Online Single Submissionシステムの導入(1) 福井信雄 小林亜維子(2018/08/23)

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インドネシア:Online Single Submissionシステムの導入(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

弁護士 小 林 亜維子

 

 インドネシアでは、2018年6月21日付で、電子的に統合された事業許認可サービスに関する政令2018年24号(以下「政令2018年24号」という。)が制定され、Online Single Submission (以下「OSS」という。) と呼ばれる新しい許認可申請システムの運用が同年7月9日より開始された。

 2014年のジョコ・ウィドド大統領の就任以降、インドネシアでは投資環境整備の観点から投資許認可手続の簡素化、迅速化が進められてきた。世界銀行のEase of Doing Businessのランキングでもインドネシアは顕著な上昇を見せており、2014年時点では120位だったランキングが2018年には70位まで上昇している。その推進役になったのが投資調整庁と呼ばれる外国投資の監督機関である。投資調整庁は、これまで各関連省庁に帰属していた許認可を統廃合し投資調整庁に許認可の発行業務を一元的に帰属させるワンストップサービスの導入と許認可手続のオンライン化を推進し、手続の簡素化、迅速化を実現させてきた。

 この投資許認可手続の利便性をさらに向上させることを企図して今般導入されたのがこのOSSと呼ばれる新システムである。OSSシステムの運用開始段階では、これまで投資調整庁が所管していた許認可関連業務の大半が暫定的に経済調整省に移管されたが、2018年11月末を目途に投資調整庁へ再移管されることになっている。また、政令2018年24号の制定に伴い、各関連省庁からも所管の許認可手続に関する施行細則のアップデートがなされることになっている。現時点では、投資調整庁、公共事業及び国民住宅省、教育省及び商業省から施行細則がリリースされており、他の省庁からも順次リリースされる予定である。

 現時点で制定された施行細則のなかでは、投資調整庁が2018年7月20日に制定した、「投資許認可及び優遇策に関するガイドライン及び手続きに関する投資調整庁規則」(2018年第6号)(以下「投資調整庁規則2018年6号」という。)がとりわけ重要である。これにより、2018年1月に新たに施行された投資許認可及び優遇策に関するガイドライン及び手続きに関する投資調整庁規則2017年第13号(以下「投資調整庁規則2017年13号」)が効力を失った。投資調整庁規則2017年13号で規定が置かれていたダイベストメント義務の免除(原則としてダイベストメント義務の履行は義務としつつ、株主総会決議を行う等の要件を満たすことで許認可に記載されているダイベストメント義務を削除することができるとする規定)やベンチャーキャピタルの投資優遇措置等の実務上重要な規定が投資調整庁規則2018年6号では規定されておらず、これらの取扱いは現時点で不明瞭であり、今後の投資調整庁の更なる規則の改正や実務上の対応に留意する必要がある。

 政令2018年24号の施行により、外国資本企業が行ってきたこれまでの許認可の申請・取得手続の枠組みは大きく変更されることになる。上述のとおり今後関連する施行細則等の整備が進むことが予想されるが、本稿では、これから全3回にわたって政令2018年24号が新たに導入した許認可の申請・取得手続の概要について解説する。

 

1. OSSシステムの意義

 OSSシステムとは、中央政府の省庁レベル及び各地方政府レベルで発行される許認可を一つのウェブサイト上から申請・取得することができるシステムと定義されている。これまでも投資調整庁に対してはウェブサイトを経由して許認可の申請が可能であったが、中央政府レベルが発行権限を持つ許認可に限られており、地方政府が発行権限を持つ許認可は別途管轄の地方政府に対して申請する必要があった。地方政府からの許認可の取得に要する手続的負担は小さくなく、それが原因で投資スケジュールが遅れることも珍しくなかった。今回の改正によりOSSシステムを経由して事業に必要なすべての許認可が取得できることになり、許認可手続の煩雑さが大きく改善されることが期待される。

 

2. OSSシステムを利用できない許認可(投資調整庁を通じて取得すべき許認可)

 政令2018年24号は、これまで投資調整庁のオンラインシステムを通じて又は投資調整庁に直接行っていた許認可の申請手続の大半をOSSシステム経由で行うよう変更したものである。ただし、エネルギー及び鉱業資源、公共事業及び国民住宅、通関及び税制優遇並びに外国会社駐在員事務所等に関する許認可を政令2018年24号の適用対象から外しているので、これら除外された許認可に関してはOSSシステムを利用することができず、引き続き投資調整庁が管掌することになっている。

(続く)

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