◇SH0711◇コロンビアにおける紛争解決手段 ~コロンビア進出企業が知っておくべき司法制度の概要~ 齋藤 梓(2016/06/27)

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コロンビアにおける紛争解決手段

~コロンビア進出企業が知っておくべき司法制度の概要~

西村あさひ法律事務所

弁護士 齋 藤  梓

 

 コロンビアは中南米ではブラジル、メキシコに次ぐ人口を誇り、ニッケル、石油、石炭などの鉱物資源に恵まれ、近年の治安の改善も受けて日本企業の関心が高まっている。日本とコロンビアの間では、「投資の自由化,促進及び保護に関する日本国とコロンビア共和国との間の協定」(日・コロンビア投資協定)が2011年9月に署名され、昨年2015年9月11日に発効するに至った。この協定の発効により,両国間の投資が促進され、経済関係が一層緊密化することが期待されているコロンビアの司法制度について以下に概観する。

 

1  コロンビアの裁判制度

 コロンビアでは、コロンビア憲法、国際条約、国内法、行政規則の順に法体系が構築されている。コロンビアは32の県(departamento)とボゴタ首都区の計33の行政区に分かれている単一国家であり、連邦司法制度を採用していない。通常裁判権を行使する最高裁判所、高等裁判所及び地方裁判所、行政裁判権を行使する行政裁判所(行政事件訴訟等を扱う)並びに憲法審査権を行使する憲法裁判所で構成されている(詳細は下図参照)。なお、陪審員裁判制度については、刑事事件の一部で採用されているものの、民事・商事裁判においては採用されていない。

 

[ コロンビアの裁判制度概要 ]

 商事事件の裁判に関しては、手続が停止ないし中断された場合等の例外的な場合に当たらない限り、1年以内に判断を下さなければならないものと規定されている(一定の場合は、期限が6ヶ月間延長される。)。ただし、裁判所において事件が累積していることから、一審裁判所が事件を受理してから判決が下されるまでに3年程度かかるとも報告されている[i]。伝統的に、ほとんどの訴訟手続において書面による審理がなされており、証拠調べ手続(証人尋問等)についてのみ口頭弁論が開かれるのが通常であった。コロンビア政府は公開の口頭弁論手続を推進して訴訟手続を迅速化し、累積した事件の処理を進めるために新しい民事訴訟法を制定した(2014年6月より施行)。新法においては、口頭弁論手続(二回開催)を規定し、法定期限内に判決をしない場合にはペナルティを課す規定も盛り込まれた。

 

2  コロンビアの司法制度の問題点

 他の中南米諸国でも問題となっているが、コロンビアではごく最近も憲法裁判所の裁判所長官が申立会社に有利な判断を行う見返りとして多額の賄賂を要求したとしてスキャンダルとなっており、司法権のトップレベルまで汚職が蔓延しているものと報道されている。司法府による汚職と司法権に対する不信は、未だコロンビアにおける深刻な問題の一つとなっている。

 

3  裁判外紛争解決制度

(1) 商事仲裁

 コロンビアでは長年にわたり、私的紛争解決手段として仲裁が用いられてきたが、近時は特に商事紛争の解決手段として仲裁が用いられる機会が増えている。コロンビアはニューヨーク条約の締結国であり、国際商事仲裁手続も広く利用されるようになったこと等を受けて、国際仲裁については、UNCIRALモデル法に準拠した近代的な仲裁法が2012年に制定された。ただし、コロンビアにおける国内仲裁については、なお国内の仲裁法が適用されることになる。

 国際仲裁の定義については、モデル法の規定に倣って、仲裁合意の当事者が、その合意時に異なる国に営業所を有する場合(同法1.3(a)条)、または、商事関係の義務の実質的な部分が履行されるべき地、もしくは紛争の対象事項と最も密接に関連を有する地の一つが、当事者が営業所を有する国の外にある場合(同法1.3(b)(ii)条)等に国際仲裁事件にあたると規定されている(ただし、仲裁合意で定められているか、仲裁合意によって定まる仲裁地の一つが、当事者が営業所を有する国の外にある場合(同法1.3(b)(i)条)あるいは、当事者が、仲裁合意の対象事項が二国以上に関係する旨明示的に合意した場合(同法1.3(c)条)に国際仲裁にあたるというモデル法の規定は採用されていない。)。

 コロンビアの仲裁法上、国内仲裁については、例えば、コロンビア法準拠の法律問題に関する紛争の場合、仲裁人はコロンビアの弁護士資格を有するものでなければならず、代理人についても同様である。一方で、国際仲裁についてはこのような仲裁人の資格や国籍を制限する規定はなく、代理人もコロンビアの弁護士資格を必要とせず、仲裁手続をどのように進めるかについて当事者が広い裁量を有する。

(2) 投資仲裁

 昨年の日・コロンビア投資協定の発効を受けて、日本の投資家(企業)においても、コロンビア政府を相手方とする投資仲裁の申立てが可能となった。今後の発展と事例の蓄積が期待されるところであるが、一般的に投資協定におけるISDS条項の発効により国家に対する紛争解決方法の選択肢が一つ増えたことで、投資仲裁の申立てに至らずとも和解交渉において優位に進めることができたという事例も多数報告されている。コロンビア進出企業においても、投資仲裁という新たな紛争解決手段を有していることを念頭に置いておくとよいであろう。

 

以 上



[i] 最新の世界銀行による調査報告によると、審理開始から判決まで平均で855日かかり、判決の執行に平均で365日かかっていると報告されている(Doing business 2016 for Colombia http://www.doingbusiness.org/data/exploreeconomies/colombia/#enforcing-contracts

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

 

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