ベトナム:労働許可書に関する新しい通達 (2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
通達40号の内容のうち、前回ご紹介した点以外で、実務にも相応の影響があると思われるような点をいくつかご紹介したい。
1. 労働許可書の免除対象となる「短期就労者」の期間要件の起算点
政令11号では、労働許可書の取得が不要な場合の一つとして「専門家、(一定の範囲の)管理職、技術者が、30日未満、かつ、1年以内の合計滞在日数が90日を超えない範囲で滞在する場合」が追加された。これに伴い、わずか数日程度のベトナムにおける短期の稼働が(年間で90日に達しない限り)労働許可書の取得の対象とはならないことが明確になり、この点は政令11号によってもたらされた大きな改正点の一つとされてきた。しかし、「1年以内の合計滞在日数が90日を超えない範囲で滞在する場合」における「1年以内」がどの時点からカウントされるのか、その起算点が明確ではなかった。その結果、例えば、ベトナムにおける就労のために最初に入国した時点であるのか、それとも1月1日であるのか、あるいはそれ以外の時点から起算されるのか定かではなかった。
通達40号では、かかる起算点が「当該外国人労働者がベトナムで就労を開始した初日」である旨が規定された(第9条)。「当該外国人労働者がベトナムで就労を開始した初日」は理論的には観念できるものの、通常、駐在員は、出張ベースでのベトナム入国や駐在に先立つ視察のための入国から、段階的にベトナムでの就労へと準備を進めることが多く、事実認定の問題として、実務において具体的にどの時点をもって「ベトナムで就労を開始した初日」と認定されるのかについては明確な基準は何ら規定されていないため、この点は、今後実務的に問題となってくることが予想される。
2. 新しい申請書のフォーム
通達40号には、当局へ提出する外国人労働者の使用計画書、労働許可書の発行・再発行・更新や労働許可書の免除確認書の発行等の各手続の申請書のフォームが添付されている。2016年12月12日以降、これらの手続に用いる申請書のフォームは通達40号に添付されたものにする必要がある。
3. 労働許可書の審査・発行等の権限を有する当局の一部変更
労働許可書の発行・再発行・更新手続きや、それに先立つ外国人労働者の使用計画書の承認等、また労働許可書の免除確認書の発行等については、政令11号では、基本的に各地方級の人民委員会(委員長)及び労働傷病兵局が管轄当局とされている。しかしながら、通達40号では、ベトナムに所在の国際機関の事務所、所定のプロジェクト事務所、外国の非政府組織等、一定の組織で就労する外国人に対する労働許可書の発行・再発行・更新手続きや、それに先立つ外国人労働者の使用計画書の承認等、また労働許可書の免除確認書の発行等については、労働傷病兵省が管轄当局となることとされている。本来、法体系上、より上位にある法令とその下位法令の内容に矛盾がある場合、下位法令は矛盾する限度で無効となるはずである。その意味では、通達40号が、より上位の法令たる政令11号の内容と矛盾している以上、有効性に疑義があるのではないかという議論は本来できるはずである。しかし、他方でこうした例はベトナムでは稀有なものなく、実務上、下位法令に従って当局は運用をしているケースが多いのが実情である。政令11号及び通達40号についても、今後の動向は見てみる必要はあるものの、かかる有効性の議論が大展開される事態にはならず、通達40号に従って実務運用がなされていく可能性は相応に高いように思われる。