投資ライセンス手続に関する新しい通達(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
通達02号の内容につき、前回ご紹介した①新規設立の場面に加え、②既存のベトナム企業の持分を取得する場面、及び、③投資登録証及び企業登録証の両方の変更を要する事象が発生する場面における手続についても以下でご紹介する。
1. 既存のベトナム企業の持分を取得する場面の手続
外国投資家が、既存のベトナム企業の持分を取得する場合において一定の条件に該当するときは、①投資法26条に定められる投資登録(いわゆるM&A登録)を行った上で、②事業登録当局に対し、当該ベトナム企業が有限責任会社の場合には事業登録証上の出資者情報の変更の申請、株式会社の場合には株主の変更の届出をする必要がある。現在の投資法の下では、①と②の手続はそれぞれ異なる管轄当局を相手として、別個の手続として行う必要がある。
通達02号では、この場合にも、新規設立の場合と同様、外国投資家は、その希望により、①②の両手続を同一の当局(すなわち、M&A登録を受理する当局)を窓口として、一つの手続で行うか、従前どおり二つの手続として行うかを選択することができることとされている。外国投資家が一つの手続で行うことを選択した場合、外国投資家は窓口となるM&A登録受理当局に対して①②両方の申請書類をまとめて提出し、両当局は当局内の連携システムを通じて情報を共有して申請手続きを進めることとされ、①②両方の審査がともに完了したことを受けて両手続が完了し、①M&A登録と②出資者の変更にかかる事業登録証の両方が一度に発行される。
ただ、実務上、外国投資家がこの場面で①②を一つの手続として行うことを選択することは相当限られるように思われる。というのは、①M&A登録は、既存のベトナム企業の持分取得行前(具体的には、持分取得にかかる代金の支払い実行前)に行うことが可能である一方で、②事業登録証上の出資者情報の変更申請、株主変更の届出は、通常、かかる支払い実行前には行うことはできず、あくまで代金支払い後に行う必要がある。通達02号に従い、外国投資家が①②を一つの手続で行うことを選択する場合、①②両方の申請に必要な書類を全て提出する必要があることから、かかる手続の申請は、代金支払い後に行うことになると考えられるが、そうすると、外国投資家は①M&A登録すら完了する前に、持分取得にかかる代金全額の支払いを求められることになる。M&A登録は、当該外国投資家による出資がベトナム法上認められるか否かを当局が審査する性質を有する手続きであるため、かかる審査が完了する前に持分取得の代金を全額支払うことは実務的に相当程度ハードルが高いように思われる。そのため、既存のベトナム企業の持分を取得する場面で、外国投資家が①②の両手続を一つの手続で行うことを選択することは事実上、相当限定されるのではないかと考えられる。
なお、外国投資家が既存のベトナム企業の持分を取得する場合、①②の手続に加え、実務ではさらに投資登録証の取得(すでに発行されている場合はその変更)手続を求める当局が多い。通達02号は、かかる投資登録証の取得(変更)申請手続きと、上記①②の手続の一体処理については何ら規定していない。
2. 両方の登録証の変更を要する事象が発生する場面の手続
外国投資家がすでに投資している現地法人において、例えば事業目的、本店所在地、出資金及び投資総額、出資者を変更する場合、投資登録証及び事業登録証の両方を変更しなければならない。この場合にも、投資家は、両登録証の変更申請手続きを一つの手続として行うか、二つの別個の手続として行うかを選択でき、一つの手続として行うことを選択した場合には、上記2つの場面と同様、投資登録当局と事業登録当局は連携システムを通じて情報を共有しつつ一つの手続として処理することとし、両手続の完了により、変更された両登録証が発行されることとされている。
3. まとめ
通達02号は、上述のとおり外国投資家がベトナムに投資する場合の手続的負担を軽減しようとするものであり、かかる目的自体、歓迎される。もっとも、既存の行政手続きを大きく変更する場合、経験則上、実務に相当の混乱が生じることも珍しくない。今回は特に地理的にも離れた別個の管轄当局が連携することも企図されており、新制度の円滑な運用がなされるのかは未知数であるようにも思われる。外国投資家としては、まずは一つの手続として処理する新制度の運用状況を見極め、安定的な運用がなされていることが確認できた後に、新制度を選択することが安全であるように思われる。