SH4449 シンガポール:会社法改正――バーチャル株主総会(下) 酒井嘉彦(2023/05/23)

組織法務株主総会

シンガポール:会社法改正――バーチャル株主総会(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

(承前)

2 バーチャル株主総会に出席する株主の権利の保護

 株主が不利益を被ることなくバーチャル株主総会に出席し、株主としての権利を行使することができるように、物理的な開催を念頭においた規定ぶりになっている会社法の株主総会に関する規律(例えば、出席方法、議決権の行使方法、質問や発言の方法等多岐にわたる)について、バーチャル株主総会においてどの規律がどのように適用されるかについての技術的な条文の追加・修正が施される予定であり、具体的には少なくとも以下の読み替え規定の追加が予定されている。なお、これらについても、定款で別段の定めを置くことが可能である。

  1. ⑴ 株主総会に出席する者に言及している会社法の関連条項に、バーチャル会議テクノロジーを通じて株主総会に出席する者を含めること
  2. ⑵ 株主総会での議決権の行使に言及している会社法の関連条項に、電磁的方法その他定款に定める方法による議決権の行使を含めること
  3. ⑶ 株主総会で議決権を行使する資格又は権利に言及している会社法の関連条項に、バーチャル会議テクノロジーを通じて出席する者が電磁的方法その他定款に定める方法により議決権を行使する資格又は権利を含めること
  4. ⑷ 挙手による投票に言及している会社法の関連条項に、バーチャル会議テクノロジーを通じて出席する者による投票(但し、当該者が、バーチャル株主総会に出席しており、かつ、法定の本人確認方法又はその他取締役会が決定する方法により当該者の特定が可能な場合に限る。)を含めること(本人確認の方法及び投票の実施方法に関して制限又は要件が課され得ることについては、次の段落の記載を参照されたい。)
  5. ⑸ 株主総会における株主の質問、発言及び議論に係る権利、並びに、株主総会において意見表明、宣言及び監査報告が読まれることに言及している会社法の関連条項に、取締役会が決定する同時コミュニケーションの手段を用いた伝達によるものを含めること
  6. ⑹ 株主総会における書面閲覧等のアクセス権に言及している会社法の関連条項に、ウェブサイトによる又は普通決議により決定するその他の方法によるアクセスを含めること

 また、上記に加え、バーチャル株主総会におけるバーチャル会議テクノロジーの使用に関する規制や具体的な手続について、今後下位規則を制定することによって、より詳細な規律が設けられることが予定されており、それには、①使用できるバーチャル会議テクノロジーの種類に係る制限又は要件を課すこと、②投票の実施方法に関して制限又は要件を課すこと、③バーチャル会議テクノロジーの使用に関する記録保管及び監査に係る要件を課すこと、④バーチャル会議テクノロジーを通じて株主総会に出席する者の本人確認の方法に関する要件を課すこと、及び、⑤バーチャル株主総会に出席している者及び出席する資格のある者に対する一定の通知又は文書(物理的な通知及び文書を含む。)の送付を義務付けることなどが含まれている。

 このように具体的な議事運営の手続・ルールについては、今後、下位規則の制定により詳細が決定され得るものがある点に留意されたい。

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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

 

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