SH4103 ベトナム:ベトナム子会社の親子ローンによる資金調達が難しくなる? ~外国ローン借入の規制に関する改正案~(2) 澤山啓伍(2022/08/19)

そのほか

ベトナム:ベトナム子会社の親子ローンによる
資金調達が難しくなる?
~外国ローン借入の規制に関する改正案~(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

(承前)

 (c) 短期外国ローンの資金使途の制限

 通達12号では、ベトナム企業が借り入れできる外国ローンの資金使途及び条件として、一定の規制を定めており、これに違反する外国ローンの借入は国家銀行での登録が認められなかったり、事後的に過料の制裁を受けた例があった。

 改正案では、これらの資金使途及び条件について以下に記載するような変更を加えている。

 

  通達12号 改正案
短期
ローン
  1. 許容される資金使途
  2. ① 借入人の生産・経営計画又は投資プロジェクトの実施
  3. ② 借入コストを増加させない借入人の既存の外国ローンの借換
  1. 許容される資金使途
  2.   短期債務(外国ローン契約の締結時から12か月以内に支払う義務がある債務)の支払
  1. 禁止規定
  2.   中長期の資金使途目的で短期外国ローンを借り入れることはできない。
  1. 禁止規定
  2.   以下の資金使途は明示的に禁止されている。
    1. ・ 国内ローンの借換
    2. 上場有価証券、出資持分・株式購入取引、投資不動産の購入又はプロジェクトの譲受への投資
中長期
ローン
許容される資金使途 許容される資金使途
  1. ① 借入金残高が投資登録証に記載された総投資額と資本金額の差額を超えない、投資登録証の発行を受けた投資プロジェクトの実施
  1. ① 借入金残高が投資登録証(又は投資方針決定)に記載された総投資額と資本金額の差額を超えない、借入人の投資プロジェクトの実施
  1. ② 借入金残高が、当局が承認した生産・経営計画や投資プロジェクトの総借入金需要を超えない、投資登録証の発行を必要としない生産・経営計画や投資プロジェクトの実施
  1. 借入金残高が、ローン契約締結時の直近の監査済財務諸表の自己資本金額(自己資本金額が定款資本金額より低い場合は定款資本金額)の3倍を超えない、借入人の適法な生産・経営のための資本規模の拡大
  1. 総貸付額と当該生産・経営の計画又は投資プロジェクトの最大貸付額の比率が借入人の当該企業における資本拠出比率を超えない、借入人が直接投資した企業の生産・経営計画又は投資プロジェクトの実施
 
  1. 借入コストを増加させない借入人の既存の外国ローンの借換
  1. 借入額が、借換対象の外国ローンの元利金残高を超えない、借入人の既存の外国ローンの借換

 

 以下、変更点を解説する。

  • 短期外国ローンは、通達12号でも中長期の資金使途目的での借入が禁止されているが、改正案ではこの点をより明確化し、「外国ローン契約の締結時から12か月以内に支払う義務がある債務を支払うこと」のみを資金使途として認め、さらに、「国内ローンの借換」、及び「上場有価証券、出資持分・株式購入取引、投資不動産の購入又はプロジェクトの譲受から生じる債務」の返済を目的とした借入を禁止している。国内ローンの借換は通達12号でも(短期、中長期を問わず)外国ローンの資金使途として認められていないが、後者については、企業買収の取引代金をいったん親会社からの外国ローンの借入で確保し、のちにデッド・エクイティ・スワップや増資でそれを返済するというスキームが採れなくなることを意味するため留意が必要である。
  • 中長期の外国ローンについては、①借入人の投資プロジェクトの実施を目的とする場合に、投資登録証に記載された総投資額と資本金額の差額を超えてはならないという条件については変更ないが、②借入人の適法な生産・経営のための資本規模の拡大を目的とする場合に、借入金残高が自己資本金(又は自己資本金が定款資本よりも低い場合は定款資本)の3倍を超えてはならないという条件が新たに追加されている。また、③借入人の既存の外国ローンの借換については、現行法では「借入コストを増加させない」という条件があるのみであったが、改正案では、借入最大額が、借換対象の外国ローンの元利金残高を超えてはならないという条件に変更されている。
  • 通達12号で規定されている、借入人の出資先への資金提供のための中長期の外国ローンの借入については、改正案では規定が削除されている。

 

 (d) 為替ヘッジの義務化

 改正案では、外国通貨建てで借入される外国ローンの為替変動リスクを回避するため、以下のように、為替デリバティブ取引(フォワード取引・スワップ取引・クロスカレンシースワップ・通貨オプション及び法律で定めるその他の為替デリバティブ取引を意味する。)の実施が義務化されている(改正案10条1項)。

 

短期外国ローン ローン金額がUSD500,000(又は同等の他の外貨)を超える場合には、為替デリバティブ取引の実施が必要。為替デリバティブ取引は、ローン実行時又はそれ以前に実施し、実行額の30%以上をカバーする必要がある。
中長期外国ローン USD500,000(又は同等の他の外貨)を超える額の元本弁済を行う都度、為替デリバティブ取引の実施が必要。為替デリバティブ取引は、該当する返済日の3か月前までに実施し、該当する返済額の30%以上をカバーする必要がある。

 

3 おわりに

 改正案はパブリックコメント手続に付された草案に過ぎず、ベトナムではこのような段階の草案の内容と、最終的に公布される法令の内容が大きく異なることも多いため、現段階で企業として何らかの対応を採る必要はない。ただ、今後この改正案がどういう形で最終的に公布されるのか、動向を注視していく必要がある。

以 上

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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