◇SH3384◇ベトナム:新労働法下での労働許可証の延長手続 澤山啓伍(2020/11/16)

未分類

ベトナム:新労働法下での労働許可証の延長手続

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 2021年1月に施行される新労働法では、外国人がベトナムで就労するために必要な労働許可証について、期間を最大2年間とし、「1回に限り延長可」という規定が置かれています(新労働法第155条)。この規定の意味については、様々な解釈があり混乱が生じていましたが、今般労働許可証の発行に関する政令案(以下「政令案」)が公表され、パブリックコメントに付されていました。今回は、この政令案の内容に基づく場合新労働法の下での労働許可証の発行手続がどう変わるかを概説したい。なお、ベトナムでは政令案が公表された後正式に公布されるまでに内容が大幅に変わることも珍しくないため、最終的に施行される内容が異なる可能性もある旨、ご留意いただきたい。

 

1. 必要な手続

 現行法では、そもそも労働許可証の「延長」という手続きはなく、当初の2年間の期間後に外国人が就労を続ける場合には、労働許可証の「再発行」を受ける形になっています。再発行手続きは、既存の労働許可証の期間満了の5日~45日前の期間中に申請することができ(政令第11/2016/NĐ-CP号第13条)、その際の必要書類は、当初の発行申請時と比べると、犯罪経歴証明書や専門家等であることの証明書が不要であるなど、簡易化されています。

 これに対して、新労働法では、労働許可証は「1回に限り延長可」と規定されています。これについては、延長後さらに2年(当初から4年)経過後はベトナムでの就労を続けることを認めない趣旨であるのか、当初から4年経過後はこれまでのような「再発行」を受ければいいのか、新労働法の文言だけでは判断できません。草案作成時及び国会審議の過程では、4年経過後は一旦帰国して再度申請しないと再発行は受けられないとか、再発行までは1年間空ける必要がある、というような説明も流布されていました。

 この点について、政令案では、労働許可証の延長と再発行についての規定がおかれていますが、再発行手続きは労働許可証を紛失した場合などに利用される手続きとされており、既存の労働許可証の期限が満了した場合は対象外となっています。したがって、政令案に基づくと、労働許可証の取得後、当初2年間の期間後に外国人が就労を続ける場合には、労働許可証の「延長」を行い、その後さらに2年経過後は当初と同様新規発行を受ける必要があるものと理解できます。

 他方で、そのような新規発行の場合において、国外からの申請が必要だとか、直近でのベトナムでの就労がないことなどといった要件は定められていませんので、ベトナムで勤務を続けたまま新規の労働許可証を取得することも認められているものと見受けられます。実際、労働・傷病兵・社会省の政令案作成担当者も、この政令案に関するパブリックコメントを聴取する会議においてそのように説明をしていたそうです。

 

2. 変更点

 以上を前提にすると、2021年1月以降に労働許可証の期間が満了する場合、これまでと比べて以下の点で手続きが異なってきます。

 まず、行うべき手続きと時期については以下の通りです。

 

現行法(政令第11号)

新法及び政令案

最初の2年経過後の対応 再発行
申請時期:期間満了の5~45日前
期間延長
申請時期:期間満了の5~45日前
4年経過後の対応 再発行
申請時期:期間満了の5~45日前
新規発行
申請時期:期間満了後の就業開始の15日前まで

 

 次に、必要書類については以下の通りです。新労働法では、4年毎に新規発行手続きが必要となるため、犯罪経歴証明書などを取得する手間が増えることになります。

 

現行法 新法
新規発行 2年・4年経過後(再発行) 新規発行・
4年経過後
2年経過後(延長)
1. 申請書
2. 顔写真
3. 犯罪経歴証明書
4. 健康診断結果
  1. 5. 専門家、管理者、代表取締役社長、技術労働者であることを証明する書類
7. パスポート
  1. 8. 労働契約、内部異動決定書など外国労働者に関するその他の書類
[1]
9. 外国人労働者使用需要の承認決定
10. 発行された労働許可証

 



[1] ただし、政令案第18条第6項では、条項番号の引用に誤りがあると思われます。

 

 

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました