わが国上場会社においてバーチャルオンリー株主総会を
許容する場合における法的論点(下)
西村あさひ法律事務所
弁護士 太 田 洋
三 バーチャルオンリー総会を許容する場合に問題となる法的論点
1 音声のみの総会を認めるか又は音声と映像(動画)とを併用した
総会でなければならないか
バーチャルオンリー総会の開催を立法によって認めるとして、まず問題となるのは、音声のみの総会を認めるか又は音声と映像(動画)を併用した総会でなければならないかという点である。
およそ株主総会も会議体である以上、議長側と出席株主側との間及び出席株主相互間においてリアルタイムでのコミュニケーションの双方向性(すなわち、情報伝達の双方向性と即時性)が確保されている必要があるが、「コミュニケーションの双方向性」という以上、音声と映像(動画)とが共に双方向でリアルタイムに視聴できる環境が確保されている必要があるのか、それとも、議長側からの音声と映像(動画)はストリーミング技術によりインターネット経由で出席株主側に流すことは容易であるとして、出席株主側の音声に加えてその映像(動画)も議長側と他の出席株主側でリアルタイムに視聴できる環境まで確保されていなければならないのであろうか。
この点、そもそもリアル総会の開催場所さえ物理的に存在していれば、株主がビデオ会議方式やウェブ会議方式のみならず、リアル総会の開催場所とそれら株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを条件として、電話のみで当該総会に参加する方法(電話会議による方法)により株主総会を開催することも可能であると解されている[29]ところではあるし、前述のとおり、米国では、バーチャルオンリー型を採用した会社の97%が音声のみのウェブキャストを用いた方式により総会を開催されていることに鑑みれば、バーチャルオンリー総会の開催を立法によって認める場合でも、音声に加えて映像(動画)により議長側と出席株主側との間及び出席株主相互間においてリアルタイムでのコミュニケーションの双方向性が確保されていることまでは必要ないと割り切ることも法的には可能であるように思われる[30]。米国でも、バーチャルオンリー型を採用する会社の大半が音声のみのウェブキャストを用いた方式により総会を開催している理由は、通信障害が生じるリスクを可及的に低減させるためとコスト面の問題からであると指摘されており、バーチャルオンリー総会の開催を立法によって認める場合に、音声に加えて映像(動画)により議長側と出席株主側との間及び出席株主相互間においてリアルタイムでのコミュニケーションの双方向性が確保されていることまで要求するのは、現在のわが国企業社会の総体としての技術水準や通信環境を前提とする限り、やや困難を強いるものといわざるを得ない。少なくとも、法的には、音声によって上記の情報伝達の双方向性と即時性が確保されていれば足りるとしておかないと、映像(動画)が途切れてしまった場合には直ちに株主総会決議取消しの問題が生じかねず、それではバーチャルオンリー総会を利用する上場会社自体がほとんど現れないことになってしまうであろう。したがって、バーチャルオンリー総会を許容する場合、法的には、音声によって議長側と出席株主側との間及び出席株主相互間においてリアルタイムでのコミュニケーションの双方向性が確保されていれば足りるとしておいた上で、音声に加えてどの程度まで映像(動画)を用いて双方向性と即時性を確保すべきかは、取締役会の裁量に委ねてもよいように思われる。
もっとも、法的な建付けとしては上記のように割り切ることができるとしても、上場会社のように、株主が不特定多数であって流動性も高く、特に、多くの出席株主が、社長を始めとする経営陣と直接相対して質疑応答している模様を間近で見聞できること(ないしは自ら質問すること)を期待して株主総会に出席しているものと考えられるわが国の場合には、少なくとも実務上は、可能な限り、音声に加えて映像(動画)を用いて、議長側と出席株主側との間及び出席株主相互間における情報伝達の双方向性と即時性を確保すべく努力すべきものと思われる。この点、新型コロナ感染症の感染拡大を防止するためのロックダウンに対応するために、バーチャルオンリー総会を時限的に解禁したドイツの新型コロナ対応法[31]では、バーチャルオンリー総会の開催に当たっては、①株主総会全体について映像と音声の配信がなされること[32][33]、②株主が電子投票できること(事前投票又はオンラインでの参加が認められること)、③株主に電子的な手段により質問する機会が与えられること及び④株主総会に物理的に参加しなくても、議決権を行使した株主に株主総会決議に異議を唱える機会が与えられること、という4つの条件を満たす必要があるとされており(新型コロナ対応法1条2項)、少なくとも、議長側からの音声と映像(動画)をリアルタイムで出席株主側に配信することは必要であると解されていることは、参考になるように思われる[34]。
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(おおた・よう)
西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。1991年東京大学法学部卒、93年第一東京弁護士会弁護士登録、2000年ハーバード・ロー・スクール修了(LL.M)、01年米国NY州弁護士登録、01年~02年法務省民事局参事官室(商法改正担当)、13年~16年東京大学大学院法学政治学研究科教授
日本経済新聞「企業が選ぶ2020年に活躍した弁護士」M&A分野第1位・企業法務一般第3位、同「企業が選ぶ2019年に活躍した弁護士」企業法務総合第2位など受賞多数