ベトナム:外国人労働者に関する新しい施行細則(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
ベトナムでは新しい労働法(法律第45/2019/QH14号。以下「新労働法」)が2021年1月1日に施行され、これに合わせて複数の施行細則が段階的に成立し始めている。本稿では、そうした施行細則のうち、ベトナムで就労する外国人労働者及びベトナムで外国組織等のために就労するベトナム人労働者の規制について定めた政令(政令第152/2020/NÐ-CP号。以下「政令152号」)に関して、労働許可証の取得や更新についての変更点など、特に実務的に関心が高いと思われる点を中心に概説したい。なお、政令152号は、2020年12月30日付で成立し、2021年2月15日に施行された。
労働許可証の更新について
旧労働法(法律第10/2012/QH13号。以下「旧労働法」)では、労働許可証の期間は2年を上限とし、期間が満了した場合には、再発給を申請する形で事実上更新を行っていた。新労働法では、労働許可証の期間は旧労働法と同様に2年を上限としつつ、2年を上限に1回に限りその延長が可能であることが明記された。この規定の趣旨については、労働許可証は最大で4年までしか認められず、今後外国人労働者はベトナムでは最大4年しか就労できないということであるのか、それとも、より簡便な申請手続が可能な延長手続は1回に限り認められ、その後は再度新規での労働許可証の取得手続をとらなければならないということであるのか議論があり、政令でこの点が明確になることが期待されていた。残念ながら、政令152号では、かかる議論の帰結について必ずしも明確に定めておらず、延長申請の手続では、新規取得の申請手続の際に提出が必要な書類の一部の提出が不要とされるなど、新規取得の場合より簡便な手続になっていることもあり、上記いずれの考え方も成り立ちうる内容になっている。そのため、政令152号の内容からは、いずれの考え方が採用されたのか定かではない。本稿の執筆時点において、新労働法施行から約1ヶ月が経過しているが、少なくとも現時点では労働許可証の更新に際してのトラブルはそれほど聞こえてこないが、今後の動向を注視する必要がある。
労働許可証の取得要件に関する主な変更点
ベトナムにおいて雇用者が外国人労働者を雇用できるのは、管理職、専門家、技術者のいずれかに該当し、ベトナム人では代替できない場合に限られることは、旧労働法・新労働法いずれにおいても共通している。管理職、専門家、技術者それぞれのカテゴリー毎に満たすべき要件が異なっているため、実務上、労働許可証の取得申請では、労働許可証を申請する外国人労働者の経歴・職歴等を踏まえ、いずれのカテゴリーで申請するのが適切か検討することが重要となる。政令152号では、これらのうち専門家と技術者について旧労働法の下で定められていた満たすべき要件を実質的に変更しており、今後実務にも少なからぬ影響をもたらすものと思われる。
(1)専門家
旧労働法の下の施行細則(政令11/2016/NÐ-CP号及び政令140/2018/NÐ-CP号。以下「旧政令」)では、専門家は、①当該外国人労働者が専門家であることを外国企業等が確認した証明書を有する者、又は、②ベトナムで就労する職種にかかる専門分野において、大学かそれ以上を卒業し、かつ3年以上の実務経験を有する者とされていた。②の要件については、大学を卒業している場合でも、就労する職種にかかる専門分野の学部を卒業していないケースや、日本で就職して3年以内に駐在するケースも多く、満たさない場合も多い。他方で、①の要件については、基本的に、当該駐在員が所定の分野の専門家である旨を日本の親会社等が証明すれば足りたため、実務上は、①の要件に基づいて専門家として労働許可証を取得するケースが多かった。
政令152号では、専門家は、(i)ベトナムで就労する職種で5年以上の実務経験を有し、資格認定証を有する者、又は、(ii)ベトナムで就労する職種にかかる専門分野において、大学かそれ以上を卒業し、かつ3年以上の実務経験を有する者(旧政令の要件②と同じ)とされている。要件(i)でいう資格認定証が具体的にいかなるものを指すのか必ずしも定かではないが、旧政令の下で実務上重要であった①の要件は削除されたため、例えば就職してから3年に満たないため、これまで旧政令の下で要件②(政令152号の下で要件(ii))を満たさず、親会社等の証明書(要件①)によって専門家として労働許可証を取得していた者は、今後は少なくとも専門家としては労働許可証を取得することができなくなる。以下で述べるとおり、技術者についても、少なくとも3年以上の実務経験が求められているため、就職してから3年に満たない者は、今後は、管理職として労働許可証の取得を検討せざるを得ないのではないかと考えられる。しかし、管理職は、基本的に会社の代表者・副代表等、あるいはユニットの長として当該ユニットを直接に管理運用する者とされているため、就職から日が浅い社員をベトナムに駐在させる場合に、どのような役職で駐在させるのか検討を要する場面が出てくる可能性がある。
(2)につづく
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(なかがわ・もとひさ)
長島・大野・常松法律事務所ホーチミンオフィス代表。1999年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2003年第一東京弁護士会登録。2009年 Stanford Law School(LL.M.)卒業。2009年~2010年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP(ニューヨーク)勤務。2011年11月から約2年半、アレンズ法律事務所ホーチミンオフィスに出向。ベトナム赴任前は、M&Aその他の企 業間取引を中心とした企業法務全般にわたるリーガルサービスを提供し、現在は、ベトナム及びその周辺国への日本企業の進出及び事業展開に関する支援を行っ ている。
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