法務省、法制審議会仲裁法制部会による仲裁法等の改正に関する
中間試案を公表(2021年3月19日)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 井 上 葵
弁護士 佐 藤 誠 高
1 はじめに
法制審議会仲裁法制部会は、第6回会議(2021年3月5日開催)において「仲裁法等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)をとりまとめ、法務省は同月19日に中間試案[1]を公表した。この中間試案については、意見募集(パブリックコメント)の手続が、同年5月7日までの期間実施されることになっている[2]。
わが国の仲裁法は、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が1985年に策定した国際商事仲裁モデル法に準拠して、2003年に立法された。その後、UNCITRAL国際商事仲裁モデル法は2006年にその一部が改正された(以下、改正後のモデル法を「2006年改正モデル法」という。)。中間試案は、2006年改正モデル仲裁法の改正内容に対応する形で仲裁法をアップデートするとともに、国際商事紛争の解決手段として国際調停の利用が世界的に進む中で、調停をも含めた関連する諸制度の見直しを図るものである。
中間試案は、下表の各分野の規律に関して改正案を提示していることから、以下それぞれの内容について概説する。
• 仲裁廷による暫定保全措置に関する規律 |
• 仲裁合意の書面性に関する規律 |
• 仲裁関係事件手続に関する規律 |
• 調停による和解合意に関する規律 |
• 民事調停事件の管轄に関する規律 |
2 仲裁廷による暫定保全措置に関する規律
仲裁手続では仲裁廷による暫定保全措置が利用可能であり、実務上も重要性を有するところ、2006年改正モデル法は、仲裁廷による暫定保全措置に関して詳細な規定を整備した。これに対して、現行の仲裁法は、暫定保全措置に関する規定は1箇条(仲裁法24条)しか置かれておらず、2006年改正モデル法で新設された詳細な規定には対応していなかった[3]。
中間試案は、仲裁法を改正し、仲裁廷による暫定保全措置について、2006年改正モデル法の内容に基本的に合わせる形で、暫定保全措置の定義(類型)に関する規定や、暫定保全措置の発令要件に関する規定、暫定保全措置に執行力を付与する規定等を新たに設けることを提案している。特に、現行法では仲裁廷が発令した暫定保全措置について執行力は認められていないところ、中間試案が、2006年改正モデル法に対応して、仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず、暫定保全措置に執行力を認める(その際には、仲裁判断の執行決定と同様に、裁判所が執行拒否事由の有無を審査して強制執行の可否を決定する)制度を設けることを提案している点が注目される。
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(いのうえ・あおい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2001年東京大学法学部卒業。2004年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2010年コロンビア・ロースクール(LLM)修了、2011年ニューヨーク州弁護士登録。訴訟・仲裁その他の紛争解決案件を主要な業務分野とする。同事務所の国際仲裁チーム共同代表として、ICC、JCAA、SIAC、HKIAC、VIAC、UNCITRAL等の規則による多数の国際仲裁事件において国内外の企業の代理人を務める。
(さとう・まさたか)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2009年東京大学法学部卒業。2013年東京大学法科大学院卒業。2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。企業活動より派生する訴訟、仲裁及び裁判外の交渉等の紛争解決案件を、多数取り扱う。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
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