◇SH3554◇インド:2020年を振り返る その他 山本 匡(2021/3/29)

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インド:2020年を振り返る その他

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

 

1. 2020年を振り返る

 インドは世界の中でもCOVID-19の影響を大きく受けた国の1つである。2020年3月にインド全土でのロックダウンを実施する等、その感染開始当初から極めて厳格な措置が講じられた。2021年2月末現在、総感染者数は1,100万人、死者数は15万人を超えている。しかしながら、2020年9月をピークに感染者数は減少傾向に入り、2021年1月にはワクチンの接種が開始した。このまま感染状況が収束へと向かうことを期待したい。

 

 2020年も多くの法律・制度の施行・改正等があった。主要なものをいくつかピック・アップすると、例えば以下のようなものが挙げられる(筆者が特に注目したもののみを挙げている。また、議会で承認されたが未施行のものもある。)。COVID-19のパンデミックの影響を受けたものが多く見られる。

 

関連法令名・通称等 概要
会社法改正
(Companies (Amendment) Act, 2020)
  1. ・ Corporate Social Responsibility(CSR)

    1. ▹ CSRのために支出すべき金額が500万ルピー以下の場合、CSR委員会の設置義務を免除
    2. ▹ CSRに支出すべき金額(直近3事業年度の純利益額の平均の2%以上)を超えて支出した場合、翌事業年度において超過分を相殺することが可能
  2. ・ 中央政府に対して、非上場会社による定期的な財務報告義務を課すことに関する規則を制定する規則制定権を付与
  3. ・ 会社法違反の罰則の合理化
COVID-19関連
  1. ・ 株主総会

    1. ▹ 年次株主総会の開催時期に関する制限の緩和
    2. ▹ ビデオ会議による株主総会の開催
  2. ・ 取締役会

    1. ▹ ビデオ会議による取締役会の開催に関する制限の免除・緩和
    2. ▹ 取締役会の開催頻度に関する規制の緩和
    3. ▹ 独立取締役会議の開催の免除
  3. ・ 取締役のインド居住要件の免除
  4. ・ Fresh Start Scheme(必要な届出の遅滞に関する制裁の免除等)
  5. ・ 上場会社

    1. ▹ 継続開示書類等の提出期限の延期
    2. ▹ 取締役会・監査委員会の開催頻度に関する規制の緩和
    3. ▹ 年次株主総会の開催期限の延期
    4. ▹ 指名・報酬委員会、ステークホルダー委員会及びリスクマネジメント委員会の開催期限の延期
  6. ・ 労働法上の各種届出の提出期限の延期
  7. ・ 銀行がタームローンの元本・利息の支払いを猶予することを許可
  8. ・ 輸出入取引に関する支払期限の延期
  9. ・ インドと国境を接する国の企業又はインドへの投資の実質的所有者(beneficial owner)がインドと国境を接する国に所在し、もしくは当該国の国民である場合、投資を行うためには必ずインド政府の事前承認が必要
  10. ・ 倒産法

    1. ▹ 倒産処理手続開始申立てを行うための債務不履行基準額を10万ルピーから1,000万ルピーに増額
    2. ▹ 2020年3月25日以降に生じた債務不履行に基づく倒産処理手続開始申立ての禁止
  11. ・ 時効期間の延長
外国直接投資政策
(FDI Policy)
  1. ・統合版外国直接投資政策(Consolidated FDI Policy)の公表
  2. ・インドと国境を接する国の企業等からの投資(上記「COVID-19関連」参照)
  3. ・防衛産業等に対するFDI規制の緩和
2019年消費者保護法
(Consumer Protection Act, 2019)
  1. ・ 1986年消費者保護法(Consumer Protection Act, 1986)を廃止・全面改正
  2. ・リコールに関する規定の新設、Eコマース業者の責任、製造物責任の導入、中央消費者保護当局(Central Consumer Protection Authority)の設置等、消費者保護の大幅な強化
労働法の再編
  1. ・既存の多数の労働法を4つの法律に集約

    1. ▹ 2019年賃金法(Code on Wages, 2019)
    2. ▹ 2020年労使関係法(Industrial Relations Code, 2020)
    3. ▹ 2020年労働安全・保健・労働条件法(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)
    4. ▹ 2020年社会保険法(Code on Social Security, 2020)

 

2. 2021年に施行・成立の可能性のある法律

 再編された各種労働法及び今後制定される関連規則の施行や、2021-22年度予算案で触れられていた保険業に対する投資上限の緩和(49%から74%へ)等、2021年も重要な法律の施行・成立が予想されるが、その中でも、2019年個人データ保護法案(Personal Data Protection Bill, 2019)の動向には注目したい。現在、インドには個人情報の保護に特化した法律は存在せず、2000年情報技術法(Information Technology Act, 2000)に基づいて制定された規則(Information Technology (Reasonable Security Practices and Procedures and Sensitive Personal Data or Information) Rules, 2011)が個人情報の保護に関する主要な法規制である。2019年個人データ保護法案は、EUの一般データ保護規則(GDPR)をベースとしており、その影響を大きく受けている。しかしながら、例えば、同法案では一定の個人データについて、いわゆるデータローカライゼーションが求められることや、クリティカル個人データ(critical personal data)等のGDPRにはない概念を導入している等、GDPRと異なる規制も存在する。同法案は議会委員会で審議中であり、おそらく、今後修正されると思われるが、議会で承認・施行されれば、個人情報保護実務に大きな影響を及ぼすと思われるため、その動向を注視したい。

 

以 上

 


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(やまもと・ただし)

2003年弁護士登録。2009年から2017年にかけて、インド・シンガポールで勤務。2015年からヤンゴンにて随時執務。新興国を中心に海外進出、各種リーガル・サポートに携わっている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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