◇SH0881◇フィリピン:会社法改正法案の審議状況 前川陽一(2016/11/16)

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フィリピン:会社法改正法案の審議状況

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 前 川 陽 一

 

 現在、フィリピン国会(上院通商・商業・企業委員会)において会社法の改正に関する複数の法案が審議中である。法案は、上院での審議及び議決を経た後、下院での審議及び議決も必要となるため、法律として成立するまでにはなおしばらくの時間を要するとみられるが、本改正法案が成立した場合、1980年の会社法制定以来初めての本格的な改正となることからその動向が注目されている。本改正法案の起草者は、会社法制に関する国際標準を反映させ今日的な要請に即した会社法とすることを改正の目的に掲げている。

 現行会社法の下で株式会社を設立する場合、5名以上の自然人(うち過半数はフィリピン居住者)が発起人となることが要件となっている。かかる要件は、外国投資家が現地法人を設立する場合だけでなく、現地の起業家が会社を設立して新事業を立ち上げようとする場合にも障害となっていると考えられてきた。本改正法案は、発起人の資格を自然人に限らず、法人にまで拡張している(ただし、うち過半数はフィリピン居住者又はフィリピンで設立された法人である必要はある。)。さらに、本改正法案は、新たに1人の発起人による会社の設立を可能とする制度を導入した(一人会社(One Person Corporation))。一人会社の発起人は、自然人に限られず、また居住要件も課されていないため、外国法人もなることができるとされている。ただし、外国投資法上の規制には別途留意が必要である。

 現行会社法の下、会社の資本金は、授権資本、引受資本及び払込資本に分類され、最低払込資本金額が5,000ペソと規定されている。本改正法案は、授権資本金額を最低100万ペソとし、設立に際して、そのうちの25%以上が引受資本として引き受けられ、さらにその25%が払込資本として払い込まれなければならないと規定している。したがって、設立に際しては、少なくとも62,500ペソが払い込まれていなければならないこととなる。フィリピンの会社法制においては、株主が引き受けた資本に対して払込みを直ちには行わないというアレンジメントも可能となっており、この場合、引受資本金額と払込資本金額とが異なることとなる。新たに導入される一人会社はさらに異なる規律が課せられている。すなわち、最低授権資本金額の100万ペソは設立時において全額引き受けられ、かつ払い込まれなければならないとされている(この場合、引受資本金額と払込資本金額は一致する。)。なお、外国投資法上の規制には別途留意されたい。

 会社の役員として、現行会社法は、社長(President)、財務役(Treasurer)及び秘書役(Secretary)を置いているが、本改正法案はこれらに加えてコンプライアンス担当役(Compliance Officer)を新設している。かかる役職を設置する趣旨は、会社経営の透明性を確保することと説明されている。なお、フィリピンにおいては日本の監査役に相当する機関は、現行会社法上置かれていない。

 本改正法案はいまだ審議中であり、最終的な法律の内容がどのようになるか、その動向には注視していく必要があるが、現時点で特に注目されると思われる改正点についてご紹介させていただいたものである。

 

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