SH5262 ドイツ付加価値税法と消費税法――第三話 プラットフォーム課税 石川 紀(2024/12/27)

組織法務監査・会計・税務

ドイツ付加価値税法と消費税法
第三話 プラットフォーム課税

石 川   紀

 

第一話 電子インボイスの義務化について|  第二話 輸出免税と免税店  |  第三話 プラットフォーム課税

 

はじめに

 現在日本においても越境Eコマースの問題が議論されるようになっており、消費税法にも部分的に規定が導入された。しかし、欧州ではこれが商法の商行為法の中の問屋とみなされる、ということとなると、日本の読者は少し驚くこととなるのではないだろうか。

 本来日本の商法の問屋の規定はドイツ商法から継承したものである。しかし、ドイツと日本とでは制度の使われ方が異なっているように見える。例えば、ワインの販売である。これはドイツにおいては商法上の問屋が良く使われており、販売店は自己の名前で販売しているものの、勘定はワイン生産者等他人の勘定で販売している。[1]

 ディスカウントショップについてもこの制度が利用される。生産者や卸が売れ残り品等をディスカウントショップの名義で販売しているが、勘定は生産者等に属するものとなっている。この中にはプラットフォームを持つ事業者もいる。[2]

 このようなことから付加価値税法においても、問屋にかかる規定が設けられている。この延長上に、プラットフォーム課税があり、問屋の考え方が付加価値税法のプラットフォーム課税にも適用されている。ディスカウントショップとプラットフォームが異なるのは、デジタル空間で商品を展示するのか、物理的な空間で商品を展示しているのかという違いでしかない。

 欧州では税法の基本原則として、経済的考察というものが租税法の中に規定されることが多い。立法論としてもプラットフォームが経済的に問屋と同じような機能を持っているのであれば、同じように課税すべきであるという議論となる。日本では国税通則法制定に際して、同様の規定を入れるべきとの議論はあったが、導入されることはなかった。

 日本は日本ということなのかもしれないが、欧州のプラットフォーム課税の考え方も、これからの消費課税を考える際の一つのヒントとはなろう。

 

1 越境Eコマース

 インターネット技術の発展はとどまるところを知らず、電子的なサービスの提供にとどまらず、商品の販売についても、実際の店舗販売と競争するような状況となってきている。[3]

 伝統的な付加価値税であれば、インターネットを利用しているかいなかを問わず、商品の処分権が移転した場所が課税地となり、それが国外であれば、輸入されて初めて輸入付加価値税が徴収されることとなる。プラットフォームは無関係な存在である。

 しかし、プラットフォームを使って商品が販売されるのが当たり前という状況となり、それが国内の実店舗での販売と競争するような状況となり、付加価値税をいかに課税すべきかという問題が生じてきている。存在を無視するのも一つの考え方であるが、実態を考えれば無視することは困難である。EUが採用した制度は越境Eコマースを行っているプラットフォーム運営者が問屋である、とみなす制度である。問屋はドイツ商法では下記のように規定されており、日本の商法の問屋もこれに倣って規定されている。

 

  1.  「383条
    ⑴ 問屋とは、業として他者(委託者)の勘定で、自己の名義で商品又は有価証券の購入又は販売を受託する者をいう。

  2.   ⑵ 問屋の業務の性質又は規模が、商業的に組織化された事業所を必要としない場合、及び事業者が2条に従って商業登記簿に登録されていない場合にも、本章の規定が適用される。この場合、348条から350条を除く4編1章の規定は、仲買取引にも適用される。

 

 この商法の規定に基づき、まず、付加価値税法3条において、問屋について下記の規定が適用される。(付録資料 付加価値税法3条参照

 

  1.  「⑶ 問屋(ドイツ商法383条)の場合、委託者と問屋の間に供給が存在する。販売問屋の場合、問屋は受領者とみなされ、購入問屋の場合、委託者は受領者とみなされる。

 

 このように、問屋と委託者の間で付加価値税の課税対象となる供給があることとみなされる。この問屋についての規定を受けて3a項にプラットフォームに関し、以下の規定が置かれる。

 

  1.  「(3a) 電子インターフェースを通じて物品の供給を支援する事業者で、物品の輸送又は発送が共同体域内で開始及び終了し、かつ、共同体域内に事業所を有しない事業者が3a条5項文1の受領者に供給するのを支援する場合は、当該事業者が自ら物品を受領し、自らの事業のために供給したものとみなされる。これは、事業者が、共同体域外から輸入された150ユーロ以下の物品の遠隔販売を、その電子インターフェースを通じて支援する場合にも適用される。文1及び文2の意味における電子インターフェースとは、電子マーケットプレイス、電子プラットフォーム、電子ポータル又は同様のものを指す。(後略)

 

 この規定を導入するに際して輸入付加価値税に適用されていた少額免税の制度が撤廃され1セントから課税されることとなった。3a項の最初の文では、EU域内の取引が規定されており、供給者がEU域内に居住していない場合にプラットフォーム運営者は、国内で問屋として活動している事業者と同様に課税されることとなる。次の文はEU域外から輸入される場合を規定しており、やはり、プラットフォーム運営者を問屋として構成し、問屋が国内で販売するものとして課税される。

 なお、3a条5項の受領者というのは消費者等、事業者とはならない者のことを指している。事業者がプラットフォームを通じて物品を購入する場合には、このプラットフォーム運営者に対する課税制度は適用されない。当該事業者を通じて最終消費者に課税できるからである。

 150ユーロの上限は付加価値税法に由来するものではなく、EU関税法に由来する上限であり、150ユーロを超える場合には、輸入者が輸入申告をしなければならないために、プラットフォーム課税ができないために置かれている規定である。EU域内での貿易や同一国内の取引であればEUは関税同盟であり、域内貿易に関税法の適用はないため、このような上限はない。

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(いしかわ・おさむ)

1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブ
ルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランク
フルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関
の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執
筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館
公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審
判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。
2025年4月から亜細亜大学経済学部にて租税論を講ずる予定。

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