SH3837 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第34回 第6章・Disruption 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/11/25)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第34回 第6章・Disruption

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第34回 第6章・Disruption

1 はじめに

 大規模建設プロジェクトにおいて、前章で取り扱ったdelayと並んで争いとなりやすいのが、disruptionである。Disruptionという英単語は、「中断」や「混乱」などと訳されることもあるが、建設契約の文脈では、建設作業が阻害または中断され、効率が落ちたことによる生産性の低下(loss of productivity)を指す。

 作業効率が落ちて生産性が低下した場合、遅延が生じたり、遅延を避けるための措置(acceleration)を行う必要に迫られたりするなどの影響が考えられる。すなわち、disruptionは追加のコストや損失の発生につながり得るのである。

 そこで、Contractorとしては、delayと同様に、disruptionについても、Employerに帰責できる場合には、生じた追加コストや損失をEmployerに請求したいと考えるのが自然である。本稿では、こうしたdisruptionに基づくContractorの請求について考察する。

 

2 Disruptionに基づく請求

⑴ 概要

 Disruptionに基づく請求は、Employer側の事情により、Contractorが工事等を予定どおりの進捗度合いで進めることができず、工事計画を変更せざるを得ない場合に行われ得るものである。Contractorが請求の根拠とする事象は多岐にわたるが、典型例には、サイトへのアクセスが限定的にしか与えられないこと(特に、Employerがアクセス確保のための用地買収を予定どおりに進められない等の理由により、Contractorによるサイトへのアクセスも困難となることは珍しくない)や、Employerの提供した図面が不正確であることなどが含まれる。また、Employerが行政からの要請を受け、工事の一部を先に完成させるようContractorに指示すること(いわゆるout of sequence work。たとえば選挙の投票日に先立ってインフラ設備の完成セレモニーを行えるよう、正面部分の作業を急がせる場合等)や、複数の業者が同時に作業する際、互いの邪魔になってしまうことなども、disruptionに基づく請求の根拠とされることがある。

 一般的に、disruptionに基づく請求が認められるハードルは高いものとされている。その主たる理由としては、まず、契約にdisruptionに基づく請求を可能とする明示的な定めがない場合が多いことが挙げられる。実際、FIDICにも、かかる明示の定めはない(ただし、債務不履行等、準拠法のもとでdisruptionに基づく請求に利用できる法理があれば、請求自体は可能であると考えられる)。

 さらに、立証の難しさも、disruptionに基づく請求が認められにくい理由として挙げられる。すなわち、disruptionはContractorの作業効率が落ちたことを前提とするところ、Contractor自身の責任で効率が落ちたことにより発生したコストや損失と、Employerに帰責できる生産性の低下によるコストや損失とを明確に区別することは困難である。したがって、disruptionに基づくものとしてContractorが請求するコストや損失が、Employerに帰責できる生産性の低下が原因で発生したものであること(換言すれば、当該生産性の低下とコスト・損失発生の間に因果関係があること)の立証も困難となる。

 また、disruptionが起きることを事前に予測するのは難しいため、Contractorは、事後に当時を振り返ってその影響を精査しなければならないところ、disruptionに該当する具体的な事象の内容や、それを原因とする生産性の低下を的確に記録した証拠が残っているとは限らない。この点も、disruptionに基づく請求の立証をさらに難しくしていると言えよう(翻って言えば、上記のような点に関する正確な記録を残しておけば、disruptionに基づく請求の成功確率を上げることができると考えられる)。

 ただし、当然のことながら、当時の記録が十分でなかったとしても、他の手段を併用して十分な立証が行えるのであれば、disruptionに基づく請求も認められ得る。後述の、専門家による分析は、かかる手段の一つである。

 

⑵ Delayに基づく請求との区別

 Contractorは、一つの建設プロジェクトに関し、delayに基づく請求およびdisruptionに基づく請求の両方を行うことが珍しくない。「Delay and disruption claims」とまとめて呼称されることも多く、両者は得てして混同されがちである。

 しかしながら、delayに基づく請求とdisruptionに基づく請求は、性質を異にするものである。両者の違いを要約すれば、delayに基づく請求は、「ある作業を、当該作業が予定されていた期間に行えなかった(それより後にしか行えなかった)ことによる余計な時間やコスト」をカバーする請求であり、disruptionに基づく請求は、「ある作業を、当初の見込みより効率悪く進めたことによる余計なコスト」をカバーする請求である。

 両者の請求は、互いに独立した請求として成り立ち得る。これは、ある作業が遅延したことにより工期が遅れても、当該作業の効率には影響がない(すなわち、delayが生じてもdisruptionは生じない)こともあれば、作業効率が悪くなっても、工期に影響しない(すなわち、disruptionが生じてもdelayは生じない)こともあり得るからである。

 ただし、上記1でも述べたとおり、作業効率が落ちた場合、遅延が生じることは考えられる。これが、当該作業の遅延にとどまらず、工期の遅延にもつながった場合には、disruptionとdelayが重なることになる。逆もまたしかりであり、遅延回復のためにContractorが取ったacceleration措置の結果として作業効率が落ちた場合には、delayとdisruptionが重なる。こうした場合、コストや損失を請求するに当たっては、二重取りとならないよう注意が必要である。たとえば、工期遅延が生じ、accelerationのため作業人員を増やしたところ、人口密度が過剰となり作業効率は落ちたという場合、Contractorにかかった追加コストをdelayとdisruptionのそれぞれに基づいて満額請求することはできず、どちらか一方に基づいて請求した金額については、他方に基づいて請求する金額から差し引く必要がある。

 

⑶ Disruptionの分析

 上記2 ⑴ で述べたとおり、disruptionに基づく請求は立証が困難な傾向にある。Employerに帰責できる事象が発生したこと自体は立証できたとしても、当該事象が原因でどの程度生産性が低下したか、また、その結果どの程度の経済的損失がContractorに生じたかを立証することは容易でない。そこで、disruptionをめぐって紛争になった場合には、専門家に依頼して、これらの事項を分析してもらうのが通常である。

 Delayの分析と同様に、disruptionの分析方法も多様であるが、大まかに言えば、①現場で実際に行った作業の生産性の比較分析に基づく方法(現場データ同士の比較)、および、②予定していたコストと実際にかかったコストの比較分析に基づく方法に分けられる(施工計画と現場データの比較)。Disruptionの本質は生産性の低下であることから、原則として、①の方が②より信頼性が高いとされており、以前に紹介したSCLのDelay and Disruption Protocolでも、可能な限り①の方法を採用するのが望ましいことが示唆されている(ただし、「生産性」と言っても、工事の現場には不確定要素が多数存在するため、製法の確立された品物を作る工場における「生産性」とは大きく異なり、データの抽出や比較が困難なことも多い)。

 そして、①の方法の中でも、measured mile analysisと呼ばれる分析法が、最も信頼性の高いものとして頻繁に用いられている。この手法は、簡単に言えば、ある作業につき、Employerに帰責できる事象によって生産性が低下していた(impacted)期間にかかった費用と、当該事象の影響を受けていなかった(unimpacted)期間にかかった費用を比べるというものである。つまり、当該作業について、impactedであった期間にかかった費用が、unimpactedであった期間にかかった費用より多かった分が、Contractorの経済的損失の算定基礎となる。Impactedであった期間、unimpactedであった期間のいずれも、実際のデータを基に比較するため、より多くの仮定を置かなければならない他の手法に比べて信頼性が高いと見られているのである。

 Measured mile analysisにおいて、理想的な比較対象となるunimpactedの期間とは、当該作業が軌道に乗ってきた頃の限られた期間と考えられる。作業の開始直後は、工員がまだ不慣れなために効率は上がりにくく、作業の終了直前も、仕上げに手間取りがちで効率が落ちやすいためである。実際の建設作業を行っている現場で、このような限られた期間を切り出すのは容易でないことから、比較用のデータを取るための模範現場(同じ作業を行うものの、その成果物をEmployerに引き渡すことを目的としないモデル現場)をContractorが設置することもある。

 Impactedであった期間やunimpactedであった期間の十分なデータがないなどの理由でmeasured mile analysisが採用できない場合には、他の手法でdisruptionに基づく請求を基礎づける必要が生じる。このような場合、Contractorとしては、なぜmeasured mile analysisが行えないのか、また、なぜ代替手段として選んだ手法が適切と考えられるかについて、合理的に説明できるようにしておく必要があることに留意すべきである。

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