SH3933 国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第47回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(2) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/03/10)

そのほか

国際契約法務の要点――FIDICを題材として
第47回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(2)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第47回 第10章・ジョイントベンチャー(JV)(2)

3 Employerの視点

 Employerにとって、Contractorに対する幹となる権利は、工事等を行うことを請求する権利である。また、これが履行されない場合には、その代わりに損害賠償を請求する権利も重要である。

 JVが、構成員から独立した法人として組成される場合、当該法人は通常、当該工事のためだけの法人であり、永続性のない法人である。したがって、信用性の高い相手方とは一般的に言い難く、第43回で述べた、履行を確実なものにするための担保の確保が必要と考えられる。その一つとして、構成員の保証を取得することは有効な手段であり、前回述べたとおり、一般的に行われている。

 この保証に限らず、複数の債務者がいる場合に共通して当てはまる事項であるが、各債務者の義務の範囲が、全体に及ぶか、個別に分割されるかは、重要な意味を持つ。日本法でいえば、全体に及ぶ代表例が連帯債務と(義務全体の)保証であり、個別に分割されるのが分割債務である。英語では、全体に及ぶ債務は一般に、「joint and several liability」と称される。

 債権者であるEmployerから見ると、全体に及ぶことが望ましい。個別に分割される場合、一部の債務者に不履行があった場合、他の債務者ないし保証人にその履行を求めることができない可能性があるが、全体に及ぶのであれば、他の債務者ないし保証人に対しても履行を請求することが可能である。

 したがって、Employerとすれば、JVが構成員から独立した法人として組成される場合には、各構成員がそれぞれJVの義務全体を保証することを望むことになり、かかる法人が組成されず、構成員が直接Employerとの工事契約の当事者となる場合には、各構成員がそれぞれ全体に対する義務を負うこと(連帯債務ないしjoint and several liability)を望むことになる。

 

4 Contractorの視点

⑴ 役割分担等

 Contractorにとって、幹となる権利は、Employerに対する代金の請求権である。ただし、ここでの想定はContractorにおいてJVが組成される場合であり、Employer側に特殊な点はないから、代金の支払や、その履行確保に特段特殊な点はない。特殊な点があるのは、受領した代金を、JV構成員間でどのように利用し、分配するかであり、この点の定めが必要になる。

 また、Contractorにとっての幹となる義務、工事等を行う義務をいかに履行するかについても、特殊な配慮が必要である。JV構成員間で、どのように分担して、履行するかを定める必要がある。工事等を行うためには、そのための人材、資材、物資、資金等を確保する必要があるが、その一つ一つについて、どのJV構成員の役割かを、具体的かつ明確に定める必要がある。

 そこで、FIDICが対象とするような大規模な建設・インフラ工事においては、詳細なJV契約が締結されることが一般的である。

 JV構成員にとって、JV契約は重要な意味を持つものであり、これが適切に締結できなければ、Contractorの一員として当該プロジェクトに参加することは困難である。そのため、JV契約は、Employerとの工事契約と並行してその調整ないし交渉が進められ、遅くともEmployerとの工事契約が締結されるのと同時点までに、JV契約が締結されることが通常である。

 なお、JV契約においては、構成員間のシェアが、数値的に定められることが一般的である。例えば、構成員が2社であれば、50:50、60:40といったものであり、3社であれば、40:30:30といったものである。基本的にはこの割合にしたがって、収益分配、損失負担、資金提供、労力の提供等を行うことが通常である。

 また、JV契約においては、構成員の中から、JVを対外的に代表するリーダーが定められることが一般的である。上記のシェアに差があれば、もっとも大きなシェアを有する構成員がリーダーになることが、一般的である。

 

⑵ JV内の意思決定

 JV内の意思決定方法は、JV契約の重要な規定事項である。方法としては、リーダーが単独で決める、構成員がそのシェアに応じた投票権を持ちその多数決で決める、構成員の全員一致を必要とする、などが考えられる。決定事項毎に、適切な方法を選択し、JV契約に規定することになる。

 

⑶ JVの構成員変更、解消等

 特殊な場面として、JVの構成員変更、解消等が必要なことも可能性としては存在する。JV契約では、その場合に備えて、構成員変更、解消等がいかなる場合に生じるか、そのための手続、生じた場合の損失分担等について定められることも一般的である。

 

⑷ 他のJV構成員に対する与信等

 第43回において、履行の確保について述べたが、そこで想定したのは、EmployerとContractorとの間における履行確保であった。JVにおいては、JV構成員間での履行確保も考える必要がある。特に、各JV構成員が工事全体について義務を負う、連帯債務ないしjoint and several liabilityの場合、他の構成員の不履行について全面的に責任を負うことになるため、そのような事態が生じないようにすることと、仮に生じたとしてもその損失を回収できることは重要である。金額的に、莫大なインパクトを持ち得る事項である。

 第43回において、不履行リスク対応の視点として、4つの視点について述べた。これらはいずれも、JV構成員間の履行確保にも該当する。特に、信用性の高い相手方とJV契約を締結することの重要性は、JV構成員間において、長期間に渡り、様々な作業を共同して行う必要があることに鑑みると、強く認識されるべきである。

 ただし、担保として、ボンドを取得することは、JV構成員間では一般的とは思われない。他方、JV構成員間の場合の担保としては、各構成員のシェアが対象になる。ある構成員の不履行があった場合に、当該構成員のシェアを、代わって履行した構成員が取得できるとの定めは、一般的なものである。

 

⑸ 法的紛争リスクの高さと対応の視点

 JV構成員間の法的紛争は、決して珍しいものではない。そのリスクも、決して低いものではない。むしろ、大規模な建設・インフラ契約と、JVとが相俟って生じる複雑さに鑑みると、法的紛争のリスクは高い類型である。

 しかも、JV構成員間で法的紛争が生じる場合の多くは、Employerとの間でも法的紛争となっており、その解決が困難であることが多い。例えば、他の構成員に問題点があると認識していても、Employerに対峙する上では共同戦線とならざるを得ず、他の構成員との紛争解決は先送りとなることが考えられる。Employerとの間も含めて一挙に和解で解決できれば良いが、多数当事者のうち1社でも和解を望まなければそのような和解は不可能であり、解決に時間を要することも多い。JVは、難易度の高い紛争案件となりやすい。

 なお、JVがEmployerとの紛争に対峙する場面において、JVの弁護士を共同で選任するか、あるいは構成員毎に個別に選任するかが検討事項になり、また、共同で選任する場合には、その費用をどのように分担するかが検討事項となる。通常は、構成員間の利害対立の可能性がある以上、構成員毎に個別に選任した方が安全ではあるが、共同で選任する場合と比べると、トータルの弁護士費用が増加すること、Employer相手に統一的な主張、立証を効率的に行うことが困難になり得ること、といったデメリットが考え得る。一概には決め難く、事案毎に対応を検討する必要がある。

 JVにおいて法的紛争が発生する典型的な要因としては、一つには、JVの構成員間において、Employerとの関係性をどの程度重視するかが大きく異なり得る点がある。例えば、ある構成員がクレーム・マネジメントをしっかりやろうとする一方で、リーダーである構成員がそれを好まず、発注者との友好関係のみに傾注し、結果的に希望する追加支払いが受けられず、JV内で紛争になり、仲裁にまで発展する例もある。

 似たような問題は、商社が元受となり、建設会社(ゼネコン)が下請となる場合にも生じ得る。すなわち、商社が発注者であるEmployerとの関係性を重視する余り、建設会社が希望するクレームを行わない、という事態も生じ得る。

 対応の視点であるが、いずれの場合においても、自らができるクレーム、証拠収集・整理等を行い、他を頼らないことが基本と、筆者らは考えている。また、Employerとの関係性を過度に重視する者とJVを組むことは、できれば避けたいところでもある。

 JVにおいて法的紛争が発生するもう一つの要因としては、JV間において役割分担とリスク分担が整合しない場合が考え得る。例えば、橋梁の下部工を土木ゼネコンが担当し、上部鋼構造を橋梁メーカーが担当するJVの場合(工事を縦割りで分担する場合)でありながら、JVの財布が一つで各構成員が工事全体について平等にリスクを負担する場合である。この場合、見積もり違い、工事費の超過、クレームの不成功による採算の悪化等が生じた際、それが橋梁の下部工または上部鋼構造のいずれの工事で生じたかは明確であるため、その損失をJV両社間で平等に分担するとなると、当該工事を担当していない構成員としては納得がいかず、法的紛争となり得る。

 対応の視点としては、JV契約において、できる限り役割分担とリスク分担を整合させるべき、ということになる。

 

5 日本の海外との違い

 筆者らの認識では、日本国内の工事では、詳細なJV契約が作成されず、信頼関係で運用されることが多い。その一つとして、JV内の意思決定方法も、契約で詳細に定められずに、リーダーに委ねられることが多いとの認識である。

 もっとも、その場合でも、損失が生じた場合には、リーダーのみが負担するのではなく、シェアに応じて、構成員が皆で負担することになるのが契約内容である。すなわち、意思決定に関与していない構成員が、損失を負担するという、納得感が得がたい帰結となる。信頼の価値を否定するものではないが、JV内の意思決定をリーダーに委ねることには、このようなリスクが存在する。日本国内であっても、リスクの大きさを正しく認識し、合理的範囲内の信頼とすることが、大切と考えられる。

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