SH4002 ベトナム:違法なストライキに対する対応 澤山啓伍/Tran Thi Viet Nga(2022/05/24)

そのほか労働法

ベトナム:違法なストライキに対する対応

長島・大野・常松法律事務所 

弁護士 澤 山 啓 伍

ベトナム弁護士 Tran Thi Viet Nga

 

 ベトナムでは近年またストライキの発生が増えているようである。ベトナム労働総同盟によると、ベトナムでは2022年第1四半期に64件のストライキが発生しており、これは前年同期比40%増とのことである。ストライキの実施期間は1~2日が大半で長くて5日であり、主な原因は、給与・賞与の金額や支払時期、食事の内容や社会保険料の未払いなど労働者の福利に関連する場合が多い、とのことである。

 ベトナムで適法にストライキを行うには、法定の要件及び手続きを満たさなければならないところ、実際に発生しているストライキはほぼ全て適法なものではないとされている。とはいえ、ストライキが違法だからといって放置するわけにもいかないのが現実である。本稿では、ストライキに対する対応について解説したい。

 

1  違法なストライキの処理

 労働法では、以下の6つの場合を違法なストライキとして列挙している。(第204条)

  1. ストライキを実行することのできる場合でないもの。
  2. ストライキを組織し指導する権利を有する労働者代表組織によらないもの。
  3. ストライキ実行の手順・手続きに関する定めに違反するもの。
  4. 集団労働紛争が、権限を有する機関、組織、個人により解決中の場合。
  5. ストライキを実施してはならない場合において、ストライキを実行すること。
  6. 管轄機関によるストライキの延期又は中止の決定があった場合。

 多くのストライキは、労働者代表組織が主導するのではなく自然発生的に発生しているようであり、3.に関して、適法なストライキは、労働調停員による調停手続き又は労働仲裁委員会による仲裁手続きを経た後(199条)、事業所における意見聴取において対象者の過半数の賛成が得られた場合に、労働者代表組織がストライキを行う旨の決定書を発行し、ストライキの実施日の5営業日前までに雇用者、県レベル人民委員会及び省レベルの労働局に送付した場合にのみ適法に行うことができることになっている。従って、雇用者にとって前触れなく発生したと思われるようなストライキは、適法な手続きを経たものではあり得ない。

 このようにストライキが違法であると考えられる場合、雇用者は、裁判所に対して、当該ストライキが違法であることを宣言してもらうよう求める権利を有する(第203条第3項第c号、民事訴訟法第403条)。この申立は、ストライキが終了してから3か月以内まで行うことが可能である。裁判所は、申立書類を受領してから5営業日以内に、ストライキの適法性を検討する会議の開催を決定し、それから5営業日以内に会議を開催し、その会議でストライキについての決定を下すことになっている(民事訴訟法第410条、412条)。

 通常ストライキがすでに発生している段階で裁判所に訴訟を提起し、合法性の判断を得ている時間的余裕はないため、裁判所への訴え提起がされることは少ないものと聞いている。ただ、法令上は上記のような特別な手続規定が設けてあり短期での決着が期待できるので、ストライキをめぐる交渉が長引く可能性をも考慮し、また雇用者側の強い態度を示すためにも、早い段階でとりあえず裁判所に訴えを提起しておくことも一手かもしれない。

 

2 人民委員会への申立

 以前の労働法(2012年労働法)では、一定の場合に省レベル人民委員会の委員長が、裁判所の決定を待たずに手続き違反の決定書を出す権限があった。しかし、現行労働法では、この制度は廃止された。現行法では、手続きに違反したストライキに関する報告を受けた場合、県レベル人民委員会の委員長が、12時間以内に関係各署と協力して雇用者と基礎レベル労働者代表組織の幹部会の代表者との直接の面談を主催することになっている(第211条)。すなわち、人民委員会は、労使間の和解を調停する立場となっている。

 

3 違法ストライキに対する処分

 労働法では、労働者が正当な理由なしに最初に無断欠勤した日から数えて30日間に合計5日無断欠勤した場合、雇用者が労働者を懲戒解雇できることになっている(第125条第4項)ので、違法なストライキが5日以上続いた場合には、この規定を使うことができる。実際ストライキが長くても5日で終了しているのは、このためと思われる。

 また、違法なストライキが雇用者に損害を及ぼした場合、ストライキを組織し指導した労働者代表組織は、法令の定めるところにより、損害を賠償しなければならない(第217条2項)。加えて、労働者個人に対しても、ストライキを悪用して違法な行為を行った場合、損害賠償責任を負うことに加え、行政処分、又は刑事処分が適用される可能性もある(217条3項)。例えば、行政処分として、労働者の、①他の労働者にストライキを行うように扇動、誘導、又は強制した行為、②暴力を使用し、雇用者の機械、設備、又は財産を破壊したが、刑事訴追の範囲内ではない行為、③ストライキに参加していない労働者の就労を妨害する行為に対して、VND 1,000,000~2,000,000の過料が科される可能性がある(政令12/2022/ND-CP第34条)。また、労働者の共有場所における公共の秩序・安全を損なわせた行為については、VND 300,000~500,000、又はVND 1,000,000~2,000,000の過料等が科される可能性がある(政令144/2021/ND-CP第7条1項a号、第2項b号)

 

4 実際の対応

 ストライキが発生した場合に実際に採るべき対応としては、以上のご説明した労働法上の規定をご理解いただいた上で、実際上最も重要なのは、ストライキを主導している労働者からその要求を聞き、それについて誠実に協議することである。その際、管轄の人民委員会や労働局から人を派遣してもらい、雇用者側の事情をよく理解してもらった上で間に立ってもらうことも必要となる。

 ただ、人民委員会や労働局の職員も、必ずしもストライキに関する労働法の規定を熟知しているわけではなく、あるいは知っていても恣意的に解釈している例が多いようである。それに対して交渉を優位に進めるには、雇用者側も事前に法律の規定を熟知しておくか、必要に応じて法律専門家の助言を得る必要があるであろう。

以 上

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

(Tran Thi Viet Nga)

2016年Hanoi Law University及び名古屋大学日本法教育研究センター(ハノイ)卒業後、長島・大野・常松法律事務所ハノイオフィスに入所。2020年ベトナム弁護士資格を取得。日系企業の事業進出に伴う手続きや法務、現地企業の売買、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務(事業拡大のための法令調査、紛争、労務、取引契約レビュー等)を担当。

 

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