個人データの越境移転自由化の政策動向
――「データの越境移転に関する研究会」の議論の紹介――
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業
弁護士 井 上 乾 介
弁護士 李 直 玹
1 はじめに
世界各国・国際機関においてデータの越境移転を自由化にする各種の通商ルールの整備が進展している。その反面、データの越境移転制限やデータの国内保存を含むいわゆる「データ・ローカライゼーション」規制を導入する国も増えている。これは、データの越境移転が不可欠となっている事業環境の変化とともにデータを個人の権利の一部として考える認識の変化が同時に進行していることを反映している。
日本は、2019年のダボス会議で、プライバシー保護やサイバー・セキュリティ確保(トラスト)によりデータの自由な流通を促進する「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト」(Data Free Flow with Trust、以下「DFFT」という。)の考え方を提唱し、データの越境移転にかかる相互運用可能な枠組みとして実現するために「データの越境移転に関する研究会」[1](以下「研究会」という。)を立ち上げて検討を進めている。
本稿では、研究会およびその活動に関する概要を紹介し、実務への示唆について述べる。
2 概要
⑴ 「データの越境移転に関する研究会」
ア 概要
研究会は、2019年以降WTOにおける電子商取引交渉を始めとし、各種通商ルールの整備が進む一方、データの越境移転制限や「データ・ローカライゼーション」を含む規制を導入する国も増加している状況を背景として設置された。2023年の日本でのG7(先進7か国首脳会議)で日本が提唱したDFFTの具体化の成果を示すべく、研究会を立ち上げ、データの越境移転にかかる相互運用可能な枠組みの検討を進めている。
イ 研究会での検討内容
研究会では、毎年度で主要検討対象を指定して検討を進めている。
2021年度には、各国においてデジタル技術の重要性がさらに認識され、それぞれが独自のデータ関連規制を導入している傾向を反映し、各国における規制状況の把握に注力したとしている。
2022年度には、相互運用可能な枠組みに向けて、OECD等の取組とも協力の上、各国制度を総合接続するための考え方を整理するための研究を進めている。
なお、2023年度には、G7の日本開催においてDFFTの具体化に向けた新たな提案を行う予定としている。
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(いのうえ・けんすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。
(い・じきょん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2012年韓国延世大学校法学部卒業。2014年韓国司法研修院終了後韓国弁護士登録(ソウル地方弁護士会)。2018年上智大学法科大学院卒業。2020年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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