特許等の手続期間の徒過に対する救済要件の緩和
(2023年4月1日施行の改正法)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 後 藤 未 来
弁理士 小笠原 洋 平
1 はじめに
特許法条約(PLT[1])および商標法に関するシンガポール条約(STLT[2])と整合した制度とするため、特許庁における各種の手続期間(出願審査請求期間、特許料の追納期間等)を徒過した場合における救済手続が整備されてきた。この中で救済の主体的要件は、期間徒過について「正当な理由」があるときと定められている。また特許協力条約(PCT)に基づく国際出願に対しても優先権回復の救済手続が整備されており[3]、受理官庁である日本国特許庁は主体的要件を期間徒過の「正当な理由」があるものに限定してきた。
そして、従前の特許庁の運用においては、この「正当な理由」の認定について申請者からの証拠書類の提出を必須とするなどして厳格に運用されていた。その結果、わが国の権利の回復申請に対する認容率は10~20%程度にとどまり、PLTに加入する主要国において条約上の同レベルの回復基準(「Due Care」)を採用する場合の認容率(おおむね60%以上)と比較して突出して低く、他国では回復される権利が、わが国では回復されないといった事態が生じていた[4]。一方、新型コロナウイルス感染症による期間徒過に関しては、「正当な理由」を証明する証拠書類の提出を求めないという比較的柔軟な対応もなされていた。
今回、2023年4月1日付で施行される改正法[5]の下で、各種の手続期間の徒過に対して、権利回復の基準が「故意によるものでないこと」に緩和され、さらに証拠の提出が必須ではなくなる[6]。また国際出願の優先権の回復についても同時に「故意ではない」とする基準に緩和され、証拠の提出が必須ではなくなる[7]。以下では、この改正法の下での実務上の留意点等について概説する。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(おがさわら・ようへい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所弁理士。2007年総合研究大学院大学大学院生命科学研究科遺伝学専攻(理学博士)修了。2007-2009年博士研究員。2009-2022年特許事務所勤務。2015年弁理士登録。特許関連案件を専門に取り扱う。専門技術分野は、遺伝子工学、医薬、食品、微生物、再生医療、蒸留・抽出、電池、光学デバイス等。