インドネシア:Online Single Submissionシステムの導入(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子
前稿に引き続き、本稿は、電子的に統合された事業許認可サービスに関する政令2018年24号(以下「政令2018年24号」という。)が新たに導入したOnline Single Submission(以下「OSS」という。)システムを利用した許認可の申請・取得手続の概要について解説する。
3. 許認可手続の流れ
政令2018年24号は、外国投資家がインドネシアにおいて法人を設立し新たに事業を行う、又は事業を拡張する際に取得する必要のある許認可の枠組みを大きく変更している。これまでは投資調整庁規則に基づいて外国企業がインドネシアにおいて投資を行う場合、原則として、①外国投資登録を取得し、②会社を設立した上で、③事業開始の準備を行い、④事業許可(Izin Usaha, Business License)を取得するというのが標準的な手続の流れであった。これに対して、政令2018年24号では、①会社を設立し、②事業識別番号(Nomor Induk Berusaha, NIB)を取得した上で、③事業許可(Izin Usaha, Business License)を取得し、④事業開始の準備を行い、必要に応じて⑤操業許可(Izin Komersial atau Operasional, Commercial and Operational License)を取得するという手続の流れに変更された。事業許可は従前と同一の名称であるが、その性質は以下で述べる通り異なるものであるため注意が必要である。これまでは、会社の設立手続を開始する前に、投資調整庁に投資登録申請を行うことで、外資規制に抵触しないことの「お墨付き」を得た上で実際の設立手続に移行するのが実務の流れであったが、今回の改正により、事前の承認・登録手続無しに会社設立が可能になった。しかしながら、外資規制に抵触する事業を行うことが投資法に違反することには変わりないことから、適用される外資規制について判断に迷う場合には、事前に投資調整庁に対して照会する等の事前の確認を経た上で実際の設立手続に進むのが望ましいと言える。
4. 事業識別番号
事業識別番号とは政令2018年24号で初めて導入された制度であり、各法人に対して割り当てられる13桁の識別番号である。事業識別番号は既存の法人、新設の法人のいずれにも取得が義務付けられ、この番号無しにはOSSシステムを通した許認可の申請手続を行うことができない。
インドネシアで事業を行う企業は、会社を設立し、法務人権省より設立証明書の承認番号、又は登録番号を取得し、かかる番号をOSSのウェブサイトに入力することでOSSウェブサイトへのアクセス権を取得し、登録手続に進むことができる。登録手続においては、事業分野、投資の種類、投資額、雇用計画等をOSSウェブサイト上で記入する必要がある。この登録手続が完了すると、企業は事業識別番号を取得することができる。なお、納税者番号(Nomor Pokok Wajib Pajak, NPWP)を既に保有している企業については、かかる番号の入力も必要であるが、納税者番号を未取得の企業については、事業識別番号を取得後にOSSシステムを通して、取得することができる。この事業識別番号は、当該企業の会社登録証(Tanda Daftar Perusahaan, TDP)、輸入者番号(Angka Pengenal Impor, API)及び通関へのアクセス権(Akses Kepabeanan)としての機能も有することになるとされている。
事業識別番号を取得した企業は、上記納税者番号の取得のみならず、インドネシアの社会保障機関(Badan Penyelenggara Jaminan Sosial, BPJS)が提供する社会保障プログラムへの加入、外国人労働者計画書(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing, RPTKA)の承認の申請、税制優遇措置(該当する場合に限る。)の申請等の手続もOSSシステムを通じて行うことができる。
政令2018年24号施行前に既に事業を行っていた企業について、企業情報等に変更があった場合には、今後はOSSシステムを通じて変更の届出等を行うことが必要となるため、遅くともその時点までに事業識別番号の取得が必要となる。なお、経済調整省が2018年7月に公表したOSSを通じて取得する事業許認可に関する企業のためのガイドライン(以下「ガイドライン」という。)は、企業情報に変更がない企業についても、事業識別番号の取得手続のみ行うこともできるとしている。なお、投資許認可及び優遇策に関するガイドライン及び手続きに関する投資調整庁規則2018年第6号(以下「投資調整庁規則2018年6号」という。)は、投手調整庁を通じて許認可を取得する企業についても事業識別番号を要求しているため、OSSシステムを利用して許認可を取得するかどうかにかかわらず、全ての企業がOSSシステムを通じて事業識別番号を取得する必要がある。また、投資調整庁規則2018年6号は、既に投資基本許可等の許認可を取得している企業については、政令2018年24号施行後6か月間は、事業識別番号なしに許認可等の申請を行うことができるとしている。
(続く)