◇SH0205◇ベトナム:最低賃金の改定とテト賞与 田島圭貴(2015/01/30)

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最低賃金の改定とテト賞与

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 田 島 圭 貴

1.  最低賃金の改定

 2015年1月1日より、ベトナムの法定最低賃金が改定された。今回の改定により、最低賃金は前年比で平均14.2%上昇したことになるが、これはベトナムにおける2014年通年のインフレ率である4.09%(ベトナム統計総局発表)を大きく上回る。従前より、ベトナム日本商工会は、ベトナム政府に対し、2015年度の最低賃金上昇率を10%以内に抑えることを要望していたが、聞き入れられなかった形だ。

 ベトナムの最低賃金は、政府、雇用主団体及び労働組合の三者代表によって構成される国家賃金評議会の提案に基づき、政府が決定する。近年では毎年改定がなされているが、過去3年間における最低賃金の推移は、下表のとおりである。2015年の最低賃金は、2014年11月11日付けで公布された政令No.103/2014/ND-CP号において地域別に規定されており、ベトナムの国内企業と外資企業とでは区別されておらず同一の最低賃金に関する規制が適用される。

 

最低賃金月額(VND/JPY(当時のレートで換算))

2013年1月~

2014年1月~

2015年1月~

第1地域(ハノイ、ホーチミン及びハイフォンの市内区及び市外区の一部、ブンタウ等)

2,350,000

(9,800円)

2,700,000

(1万3,500円)

3,100,000

(1万7,600円)

第2地域(ハノイ、ホーチミン及びハイフォンの市外区のうち第1地域に掲げられたもの以外の地区、ダナン、ダラット、ミトー、カントー市内区等)

2,100,000

(8,700円)

2,400,000

(1万2,000円)

2,750,000

(1万5,600円)

第3地域(第2地域に掲げられた省以外の省にある市、カントー市外区等)

1,800,000

(7,500円)

2,100,000

(1万500円)

2,400,000

(1万3,600円)

第4地域(第1地域から第3地域以外の全ての地域)

1,650,000

(6,900円)

1,900,000

(9,500円)

2,150,000

(1万2,200円)

 

 最低賃金は、他のASEAN諸国においても上昇しており、特に隣国カンボジアにおいてはその傾向が顕著である。2013年に80米ドルであった縫製・製靴業の工場労働者の最低賃金(月額)は、2014年には100米ドル、2015年1月からは128米ドルと急速に上昇しており、既にベトナムの一部地域の最低賃金を上回る水準に至っている。

 タイ、インドネシア、フィリピン等の周辺諸国と比較すると、ベトナムの最低賃金は依然として低水準にあるとはいえるが、多数の労働者を雇用する労働集約型の産業を中心に、近年の最低賃金の上昇をベトナムにおける投資環境上の問題点として懸念している企業は多く、今後も最低賃金の上昇を巡る動きには注意が必要といえる。

2.  テト賞与

 今年もテト(ベトナムの旧正月)前の賞与の時期が近づいてきた。ベトナム労働法上、賞与を支給する法的義務はないが、実務上は、毎年テト前に賞与を支給するのが慣習となっており、ベトナム人労働者も、テト前に賞与が支給されることを当然と考えているようである。多くの外資企業では少なくとも給与1か月分程度が賞与として支給されているようであるが、業績が芳しくない国内企業では、賞与の額が不十分であったり、金銭の代わりに自社製品を賞与として現物支給したりすることが原因で労働者の間に不満を生じさせる例もある。最近でも、ホーチミン市の台湾系縫製工場において、賞与の算定方法をめぐり5,000人規模のストライキが発生したことが報じられており、賞与の取扱いに苦慮している企業は多いと思われる。

 ベトナム労働法上、祝日は年間10日間しかなく、周辺諸国と比較してもかなり少ないといえるが(なお、日本の祝日は15日間)、テトは、この年間10日間しかない祝日の半分の5日間を占める祝日である(具体的な日程は毎年変動するが、2015年は、振替休日も含めて2月15日から23日までを9連休とすることが政府により決定された。)。このような背景もあり、ベトナム人労働者の多くは数か月前からテトを心待ちにしている。テト休暇中は、直前に支給された賞与を手に故郷へ帰省する者も多いが、なかにはテト休暇が明けた後も職場に復帰せず、そのまま事実上の退職となる労働者が少なからず存在することが問題となっている。このような労働者に対し、雇用契約違反を主張し職場に復帰させるのは現実的には難しいことから、かかるテト休暇中の一方的な退職を避けるために、テト前に待遇を改善したり、テト前に賞与を全額支給せず年間で分散して支給したりするなどの対策を行う会社もある。

(たじま・きよたか)

2005年京都大学法学部卒業、2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2012年University of Southern California Gould School of Law卒業(LL.M.)、2012年~2013年Amarchand & Mangaldas & Suresh A. Shroff & Co.(New Delhi)勤務、2014年~長島・大野・常松法律事務所ホーチミン・オフィス勤務。ベトナム及び周辺諸国への日系企業の進出、M&A、現地子会社の管理・再編、競争法への対応等、企業法務全般にわたり日系企業の支援を行なっている。

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