◇SH0353◇タイ:続報タイ民商法典改正について 箕輪俊介(2015/06/26)

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タイ:続報タイ民商法典改正について
(企業間取引に配慮した改正の実現か?)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 タイ民商法典は、過日に拙著にて寄稿したとおり、昨年末に改正され、本年2月11日付で施行された(以下、この改正を「第一改正」という。)。第一改正は、保証人や抵当権設定者の保護の強化という点に主眼があったものの、個人と法人を区別することなく連帯保証を一律に禁止する等、企業間取引の実態に馴染まないところがあったため、企業間取引の当事者からは強い批判があった。この批判を受けて、保証人や抵当権設定者の保護という第一改正の趣旨を尊重しつつ、企業間取引へ考慮をみせた新たな改正(以下、「第二改正」という。)がなされる見込みだ。未だ改正原案が国民立法議会で承認された段階であるため(注:2015年6月22日現在)、今後どのようなタイミングで改正がなされるかは不確定な部分があるものの、現在公表されている原案に沿って今後なされるであろう改正の内容について見ていきたい。

(1)  連帯保証の禁止の例外(法人間取引について)

 第一改正において保証人が主債務者と連帯して債務を負担する旨の合意は無効とされたが、第二改正原案では例外が設けられている。保証人が法人であり、かつ連帯保証人になることについて同意している場合は、例外的にかかる連帯保証の合意も有効なものとして取り扱う。

(2)  ヘアカット対応への配慮

 第一改正において、債権者が主債務を合意により縮減する場合(ヘアカットする場合)、保証人は、縮減後の債務と同等の金額を主債務の履行期限に拘わらず任意のタイミングで弁済すれば免責されることとされていた。この場合、保証債務は実質無期限となるため、主債務をヘアカットすると、保証人からの回収は事実上困難となる。したがって、債権者は保証を実質的に無意味なものとする主債務のヘアカットに応じづらくなり、債権者及び主債務者間の柔軟な債務再編が妨げられるとして、実務からの強い批判があった。

 かかる批判を受けて、第二改正原案では、ヘアカット後、保証人に一定の期間内に債務の弁済を行うことを義務づけている。具体的には、債権者と債務者がヘアカットについて合意した場合、債権者はかかる合意が成立した日から原則として60日以内(以下、「本通知期限」という。)に保証人に対してかかる合意について書面にて通知する必要がある。かかる通知が本通知期限内に行われた場合、保証人は主債務の期限から60日以内に保証債務を履行することとしている。また、債権者が保証人に対して本通知期限内に書面による通知を行わなかった場合は、債権者がかかる通知を送付したときから60日以内に保証債務を履行することしている。

(3)  リスケ対応への配慮

 第一改正において、保証人の同意なく債権者と主債務者の間で主債務の期限の延長について合意する場合、保証人は免責されることとされていた。また、期限の延長について保証人が予め同意すること(保証人が予め同意権を放棄すること)は認められていなかった(かかる合意は執行不可能とされていた。)。この改正は債権者が期限の延長に応じることを困難にさせ、債権者と主債務者の間で機動的に期限の延長について合意することを困難にするという強い批判があった。

 かかる批判を受けて、第二改正原案では、上記規定の例外を設けている。すなわち、債務者のディフォルト後、ヘアカットの合意の中で債務の期限の延長も合意される場合は、上記規定を適用しないものとしている。すなわち、かかる場合は、保証人から同意を取得することなく債権者と主債務者の間で主債務の期限を延長しても、保証人は免責されない。

 また、金融機関や保証の提供を事業とする機関が保証人となる場合は、例外的に期限の延長について保証人が予め同意すること(保証人が予め同意権を放棄すること)も認めることとしている。

(4)  保証人と物上保証人の兼任

 第一改正で物上保証人が保証人を兼任する場合は、かかる保証契約は無効とされたが、第二改正原案ではこの例外が設けられている。すなわち、主債務者が法人であり、物上保証人が主債務者の法定の経営権等を有する個人であり、かつ、当該保証契約と抵当権設定契約が別個の契約として締結されている場合は、例外的に物上保証人が保証人を兼任する場合もかかる保証契約は有効なものとして取り扱うとしている。

(5)  今後の動向

 第二改正は2015年6月又は7月に公布されるものと言われているが、どのタイミングで公布がなされるかは明らかではない。したがって、今後も動向は引き続き注視していく必要がある。

 

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