ベトナム:新たな労働者海外派遣法の制定~制限範囲の拡大?(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
3. 送出機関としての認可が必要な業務内容
現行法と新法では、送出機関が行う業務の内容として、以下のように定めており、新法では現行法よりもその内容を明確化しているように見受けられる。
現行法4条 | 新法9条 |
1. 海外で勤務する労働者に関連する契約の締結 |
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4. 労働者を海外に派遣する契約の履行 | |
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2. 労働者の募集 | 3. 労働力の調達及び労働者の募集 |
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7. ベトナム人労働者海外派遣契約の終了 |
8. 帰国した労働者の就労サポート | |
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これらの規定は、いずれも、ここに定められた業務が送出機関としての認可を得た企業しか行うことができない業務であるという書きぶりにはなっていない。しかしながら、逆に送出機関しか行うことができない業務が何であるのかを定めた規定や、どんな業務を行うために送出機関の認可が必要であるのかを定めた規定は現行法にも新法にも見当たらない(現行法は、「海外で勤務する労働者を送り出すサービスを行う企業」について送出機関の認可が必要であるとしており(現行法第8条第2項)、新法では、「契約に基づいて海外で勤務するベトナム人労働者を送り出すサービス活動」を実施するには認可が必要であると規定するのみである(新法第8条第1項)。)。したがって、例えば新法で規定された「海外での就業機会についての情報提供、広告、助言」や「帰国した労働者の就労サポート」といった業務を行うことについて、送出機関の認可が必要であるのか否かは判然としない。この点、ベトナムでは、法令がこういった形で曖昧に規定されている例は少なくなく、その場合に、当局の担当者を含め、制限を広く解釈する(場合によっては、法文上明確に認められたこと以外は禁止されていると解釈する)傾向が強いように感じられる。現時点では、日本の人材紹介会社やそのベトナム子会社、日本の地方自治体が、日本での就職情報について、ベトナムでセミナーを開催するなど情報提供を行っている様子が見受けられるが、このような活動も、新法の施行後は送出機関の認可が必要、すなわち日本企業の資本が入った会社には行うことができない業務であるとみなされる可能性もある。どのような業務までなら許容されるのか、認可が必要な業務についてどのような形で送出機関との協力体制を組むのか、慎重な検討が求められる。
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
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