(第11号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅰ.Freshmanのために・・・若いうちにこれだけはやっておこう(その8)
【日本法のきっちりとした理解が全ての基本】(その1)
若手の法務部員によく見られる傾向であるが、早く海外関係の仕事をしたい、海外プロジェクトに参画したい、というのがある。向上心の発露だろうと微笑ましく聞いているが、その前に考えておくことがある。日本法のきっちりとした理解である。
20年ほど前のことであるが、私は「企業法務と法学部教育」(有信会誌34号所収)という大学教授2名、企業法務責任者5名が出席した座談会で、「外国法の必要性と教育のポイント」、「学習の基本的心構え」が話題になったときに次のような発言をした。
「アメリカにしても、ヨーロッパ各国にしても、あるいは東南アジア諸国にしても、その国で何かをやろうとするときには、全部を自分たち企業ができるわけはないんです。現地の専門家、弁護士、公証人、公認会計士といった人達と相談しながら、業務をやっていくのです。そのとき、日本法に対するきっちりとした理解があれば、何を聞くのか、どのような順序で聞けばよいか、また回答にちょっとおかしいところがあるのではないかとか、そういう点は分かると思うんですね。
私もそう経験豊富な方ではありませんが、東南アジア諸国、インドネシアやタイの合弁会社において、特に会社法の関係などでいろいろ問題解決をせざるを得ない場合もありました。これら諸国においては、法律が必ずしも全てを規定しているわけでもなく、行政指導によることも多く、また、担当官の意見に従わざるを得ない場合も多い。いろいろ難点はあるんですが、問題点、疑問点を一つ一つ日本法をベースに考えて、クエスチョネア(質問書)を作り、順番に議論して行けば、きっちりと結論が出てくるわけです。
そういう意味で、私は限られた時間でも英米法、その他の外国法の勉強というのも望ましいとは思いますが、やはり日本の法律についてのきっちりとした理解が大事ではないかと思っています。」
この私の発言に対して、企業法務の先輩である大手電機メーカーの取締役支配人は「私も同感です。」と応じて下さり、大手化学会社の法務部長は「例えば日本法で、民法でも商法でもいいから、幾つかのコアについて深く掘り下げていただいて、きちっと勉強していただきたい。それとの比較で、やはり海外の法律も少し基礎的なところは勉強していただく。・・・コアになる六法なら六法のところはきちんと勉強さえできておれば・・・ある意味の概念操作なり、理論的な分析さえできれば、これらはすべての面に応用が効くわけですので・・・」と補足された。
外国法を勉強すること自体を否定する訳ではないが、その前に日本法、特に民法、商法、会社法といった基本的な法律の基本的な考え方やそれをベースにした事案の整理の仕方がきっちりできることが、大切であると考えている。(次号に続く)
(以上)